保険

金融と ITの融合である「フィンテック」。フィンテックの新しい技術は、保険業界にも及んでいます。保険業界では競争が一段と激しさを増す中、既存のビジネスプロセスの変革が迫られているからです。

とくに顧客との関係では、パソコンやスマホ・タブレット端末によるスピーディーな契約を求めるニーズに対応するため、アクセスチャンネルの拡大が重要な課題になっています。

保険業界では、顧客との契約やデータの分析・管理などの社内オペレーションの効率化や、リスクマネジメント強化を図るニーズが強まる中、フィンテックの活用が試みられているのです。

保険をテクノロジーで進化させる領域は「InsurTech(インシュアテック)」、もしくは「InsTech(インステック)」と呼ばれていています。保険分野はテクノロジーの導入が10年遅れていると言われており、支払いやインフラ面での革新が期待されています。

1.InsurTech(インシュアテック)はロンドンで誕生

画像:Swiss Finance̟+TechnologyAssociation

インシュアテックという言葉が生まれたのは、保険業界の中心であるイギリスのロンドン。全世界のあらゆるリスクを最終的に引き受ける「ロイズ保険市場」があり、保険業界の中心です。ロンドンにはインシュアテック・ベンチャーも多数集まっています 。

ベンチャー企業と保険会社・投資家の間を取り持ち、出会いの場を提供するイベント「InsTech London Meetup」が定期的に開かれています。その中では、「ビッグデータ」や「ブロックチェーン」といったフィンテック用語が活発に飛び交っています。

とくにビッグデータは、保険会社は加入者の膨大な情報を保有している上、医療関連情報の処理にも関わってくるので、インシュアテックのキーテクノロジーです。

これまでは、保険会社だけが契約をもとに病気などの発生確率を独自に算出していました。しかし、ウエラブル端末の誕生やスマートフォンの普及などによって、人々の生活のライフログ(記録情報)を低コストで収集することが可能になりました。

これは、いわゆるビッグデータです。保険会社でなくても、これらのテクノロジーによって収集した膨大な情報によって、病気になる・事故を起こすなど特定の出来事が起こる確率をかなり正確に求めることが可能になったのです。

ビッグデータを解析して活用すれば、今まで健康状態の査定で引受基準に達せずに保険の加入を断っていた人でも、加入できる可能性が出てきます。それ以外にも、特定疾病の保障など顧客ニーズに応えられる商品の開発や、販売現場での的確な商品提案にもつながっていきます。

2.インシュアテックで先行する中国

インシュアテックで世界をリードしているのは中国です。中国の生命保険の規模は2017年に日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位となりました。損害保険についても世界2位の市場規模に成長しています。

インシュアテックで強みを発揮しているのはIT系保険会社。これまで中国では金融システムが十分に普及していませんでした。しかし、その弱みがデジタル時代には追い風となり、フィンテックが一気に広がっています。同じことがインシュアテックでも起こり、急速に普及が進んでいるのです。

急成長する中国でいち早く保険商品開発のプラットフォームを立ち上げていたのが、衆安インターナショナルです。中国初のネット専業保険会社である、「 衆安在線財産保険」の子会社として設立されました。

衆安在線財産保険は、アントフィナンシャル、テンセントと共に中国最大の保険会社である中国平安保険グループにより設立されました。同社の勢いは中国国内だけにとどまらず日本市場に及んでいます。2018年9月に日本の損害保険ジャパン日本興亜と提携。IT保険プラットフォームを提供することで合意しています。

衆安保険は4億人以上の契約者を持つとされており、日本を重要な市場と位置付けています。将来は日本を足がかりに、アジア市場全体への事業展開を狙っているのです。

3.保険分野におけるフィンテックの活用

(1)保険契約

保険会社は、保険契約のリスク分析や査定などにビッグデータを活用することができます。またユーザである被保険者は、タブレット端末などで年齢の経過により保険契約がどのように変化するかを見ることが可能です。

さらに保険のオーダーメイド化が、スマートフォンやタブレット端末の普及などによりデータ収集が容易になったことから実現可能になりつつあります。

より健康な生活を送っているとみなされる非喫煙者や、優良ドライバーに対して保険料を軽減する「リスク区分型の保険販売」はすでに始まっています。フィンテックを活用することにより、これらを大幅に進化させ、より多くのデータに基づき個人に合わせた保険を提供しようとしているのです。

(2)ヘルスケア

フィンテックベンチャーが、アプリなどを利用してヘルスケアサービスを提供するケースが見られます。健康を表す「Health(ヘルス)」と「Technology(テクノロジー)」を掛け合わせた「HealthTech(ヘルステック)」です。

ヘルステックでは、病気の予防や健康管理から、診療後のアフターケアまでサービスを行います。ヘルスケアにテクノロジーを導入することで、個々人の健康状態を遠隔から確認することが可能になっているのです。

たとえば、ニューヨークや東京・ソウルに拠点を置く”Noom”は、有料でヘルスケアアプリを提供。英語版ではダイエット・糖尿病予防の2つのプログラム、日本版では体改善プログラムが提供されています。

スマートフォンやタブレットなどのオンライン端末を使って受信し、薬を自宅まで届けるといった、遠隔医療も行われています。ヘルステックを活用することで、医療費の抑制や医療の質向上が期待されているのです。

4.テレマティクス保険とは

テレマティクス(telematics)は、テレコミュニケーション(遠隔通信)とインフォマティクス(情報工学)を組み合わせた造語。自動車などの移動体に取り付けたカーナビなどの移動体通信システムを利用し、リアルタイムで情報を提供するサービスです。

このテレマティクスを利用する保険が「テレマティクス保険」です。自動車の走行距離や運転特性といった運転者別の運転情報を取得して分析します。その情報を基に保険料を算出するのです。

(1)テレマティクス保険の種類

テレマティクス保険は、事故リスクをどのように把握するかにより、次の2つに分類されます。

①PAYD(走行距離連動型)

走行距離連動型の保険です。走行距離が長いほど保険料は高くなります。

②PHYD(運転行動連動型)

運転速度や急アクセル・ブレーキの掛け方といった運転者ごとの運転情報を取得・分析。危険運転の度合いが高いほど保険料は高くなります。

(2)テレマティクス保険のメリット

国土交通省では、リスクに応じた詳細な保険料が設定できることから、安全運転の促進効果と事故の減少効果があるとしています。

走行距離が短くなったり、アクセルやブレーキの操作が穏やかで安全運転をしたりしている場合、事故のリスクは減少する傾向にあります。保険会社が支払う保険料が少なくなるので、保険料を安くすることが可能。テレマティクス保険は、個人だけでなく、企業が利用する車両のリース保険にも活用することができます。

さらに、テレマティクス保険によって安全運転が進めば、社会的な貢献にもつながります。たとえば、交通事故の減少による事故渋滞の解消などです。

(3)テレマティクス保険のデメリット

ドライバーの走行データなどの個人情報が保険会社に筒抜けになる他、すでに優良ドライバーだった場合に、どれだけ保険料が安くなるのかといった懸念もあります。

しかし、テレマティクス保険が普及すれば、交通事故が減る可能性も高くなります。今後、日本での普及がどの程度進んでいくかが注目されています。

5.海外におけるテレマティクス保険の普及率

海外では、欧米を中心にテレマティクス保険が浸透しつつある状況です。 2020年には、テレマティクス保険が自動車保険の約3割を占めるまでになると予測されています。

テレマティクス保険の成り立ちを考える上で欠かせないのが、Progressive(米国)です。1992年からテレマティクス保険の研究や実証実験を始めました。

1990年代後半には「Aurograph」という商品を開発。走行距離や速度、走行の時間帯といったデータを取得して分析し、交通事故のリスクと相関係数があることを明らかにしました。PAYD型の基になる考え方です。

6.日本におけるテレマティクス保険

(1)PAYD(走行距離連動型)保険

出典:損保ジャパン日本興亜

テレマティクス保険を導入していなくても、走行距離に連動する保険はいくつかの保険会社から販売されています。こうした保険は、契約者が保険契約時に予想年間走行距離を申告し、これに応じた保険料を算出しているのです。

一方、損保ジャパン日本興亜が2016年1月に発売した「ポータブルスマイリングロード」は、市販のカーナビを活用します。無料のカーナビアプリをインストールすると運転診断機能が付加され、「運転行動連動型」で保険料が最大20%安くなります。保険料割引きで走行データが回線で送られるという、本格的なテレマティクス保険です。

(2)PHYD(運転行動連動型)保険

出典:ソニー損害保険

ソニー損害保険は、2015年2月から運転特性を保険料に反映した損害保険の「やさしい運転キャッシュバック」を販売しています。日本で最初の個人向け「運転行動連動型」テレマティクス保険です。

ソニー損保は、急発進(急加速)、急ブレーキ(急減速)の発生状況と事故リスクに相関関係があることに着目しました。契約者に無料で「ドライブカウンタ」を貸与し、内蔵の加速度センサーが加速・減速の発生状況を計測します。

急発進や急ブレーキが少ないスムーズな運転をすると保険料が戻る仕組みです。ソニー損害保険では、契約者の安全運転に対する意識の高まりによる事故減少を期待しています。

7.P2P保険とは

保険業界のフィンテック活用は、ビッグデータや人工知能(AI)などITの活用が中心ですが、海外ではP2Pを活用する保険も誕生しています。P2P保険とは、peer-to-peerの略で、シェアリング(共有)エコノミーを保険に適用したものです。

民泊やカーシェアリング、スキルやスペースなど様々なものが不特定多数の利用者によって共有(シェア)され始めています。P2P保険とは、仲間同士が集まって保険のリスクを算出して保険に加入する仕組みです。

同じリスクを有する仲間同士がリスクをシェアするという意味で、シェアリングエコノミーと同じ見方がされています。P2P保険が革新的なのは、従来のように保険会社を介さず、加入者たちが直接つながってリスクをシェアすることです。

自分の友人、家族、同僚などで新たなグループを形成します。グループを構成する人数は、数名から数十名程度で、各加入者から資金がプールされます。

仲間から保険料の請求があった場合、プールされた保険料から支払われます。プールされた保険料がカバーできない時のみ保険会社が保険金を支払う仕組みです。代表的なP2P保険サービスを確認しましょう。

Friendsurance(ドイツ)

出典:Friendsurance

P2P保険のパイオニア的存在が、ドイツで2010年に設立されたFriendsurance。
保険会社ではなく、あくまで保険ブローカーとして保険会社と顧客の間をつないでいる企業です。

Friendsuranceは10万人以上の利用者を抱えています。ドイツでは自動車保険・火災保険・訴訟保険・損害賠償責任保険、オーストラリアでは自動車保険を扱い、今後も事業拡張予定です。Friendsuranceに倣ってP2P保険を販売する会社は、全世界で
30社以上に拡大しています。

しかし、日本では金融庁がP2Pという保険のシステムを認可しておらず、今後認められるかはわからない状況です。

8.オンデマンド保険とは

オンデマンド保険とは、スポーツやレジャー、日帰り旅行など必要な時間だけに限定してかけられる保険。スマートフォンが普及による契約手続きの簡素化が進んでおり、ライフスタイルの変化に対応できます。

自動車やレジャー、国内旅行などで1日保険が誕生しています。

たとえば、レジャーやゴルフなどに行く際に24時間単位で加入できる損害保険があるほか、親や友人など他人名義の車で事故を起こした場合の損害が補償される保険もあります。

9.まとめ

長い歴史を持つ保険分野でも、フィンテックの活用が試みられています。フィンテックを活用して、保険分野に改革を生み出すインシュアテックです。

顧客との間の契約やデータの分析、管理などの社内オペレーションの効率化やリスクマネジメントの強化が強まっています。

今後も、保険商品開発のプラットフォーム化・保険のオーダーメイド化が進み、新しい形のサービスが普及していくと考えられます。