ビットコインはマネー・ロンダリングに利用されやすい?諸外国の対処方法と日本における規制内容について

 

ビットコインへの投資は過熱する一方ですが、

「マネー・ロンダリングに利用されやすい」という批判や懸念も指摘されています。

 

実際に、ビットコインはマネー・ロンダリングに使われやすい性質を持っているのでしょうか?

 

また、諸外国や日本において、ビットコインのマネー・ロンダリング対策としてどのようなことが行われているのか、知識を持っておきましょう。

 

今回は、ビットコインがマネー・ロンダリングに利用される場合や、世界におけるマネー・ロンダリング規制内容について、解説します。

 

マネー・ロンダリングとは

マネー・ロンダリングは、資金洗浄

 

そもそも、マネー・ロンダリングとは、どのようなことを意味するのでしょうか?

マネー・ロンダリングは「資金洗浄」です。

つまり、もともと悪い原因で取得したお金を、いろいろな口座や資産の形態を介することにより、出所をわからなくさせることです。

 

たとえば、麻薬や脱税などの犯罪行為によって、多額のお金を得たとします。そのまま、そのお金を使って商品やサービスなどを購入すると、犯罪がバレてしまいます。

そこで、他人の口座や外国の口座などを介することにより、もとのお金の性質を薄めてしまうのです。

マネー・ロンダリングが終わったときには、そのお金は、犯罪収益であることがわからなくなり、きれいなお金として、自由に使えるようになります。

 

マネー・ロンダリングの具体例

 

マネー・ロンダリングの典型が、先日ニュースになっていた「パナマ文書」の1件です。

パナマ文書の事件では、富裕層の人たちが、脱税をするために、租税回避地(タックスヘイブン。税金がかからない土地)にペーパーカンパニーを設立しました。

 

そして、そこに送金することで、タックスヘイブンに存在する会社の収益金という形に換えてしまい、多額の税金の支払いを免れていたのです。

これは、ペーパーカンパニーを利用した、典型的なマネー・ロンダリングです。

 

マネー・ロンダリングを規制する必要性

 

当然のことですが、マネー・ロンダリングは規制しなければなりません。

犯罪収益をおおっぴらに使えるということになると、犯罪がはびこる原因にもなりますし、マネー・ロンダリングを利用すると、テロ資金の準備なども容易になるためです。

日本にも「犯罪収益移転防止法」という法律がありますし、諸外国でも、マネー・ロンダリング規制が行われています。

 

ビットコインは、マネー・ロンダリングに利用されやすい?

 

ビットコインについては、「マネー・ロンダリングに利用されやすい」という指摘があります。以下で、諸外国や日本におけるビットコインのマネー・ロンダリング・リスクについての考え方をご紹介します。

 

オーストラリア

 

たとえば、オーストラリアの対テロ資金監視機関である「AUSTRAC」は、「仮想通貨などのインターネットを利用した新たな決済手段は、正式な金融機関を通さずに送金できるので、テロ資金になりやすいリスクを持っている」と主張しています。

 

そして、「テログループの募集や通信においても、オンライン決済システムが利用されている可能性が高い」と述べています。

さらに、「過去に破綻したビットコイン取引業者であるMTGOX社内の詐欺行為や、シルクロードにおけるドラッグ販売などの犯罪にも、ビットコインが悪用されている」と指摘します。

 

イギリス

 

イギリスでも、仮想通貨のマネー・ロンダリングについてのリスクに対する指摘が行われています。

 

2015年11月、イギリスの財務省はマネー・ロンダリングについての調査を行いました。

その際、仮想通貨がクラウドファウンディングなどでの資金調達に利用されたことなどを挙げた上で、「ビットコインがマネー・ロンダリングに利用されるリスクは、現在では低いけれども、将来的に仮想通貨が普及するにつれて拡大していく」、と述べています。

 

日本

 

日本においても、平成28年犯罪収益移転危険度調査書において、「仮想通貨は、利用者の匿名性が高いことや、仮想通貨の移転が国際的に広がっていて、迅速に行われていることなどからして、犯罪収益の移転に悪用される危険性がある」と書かれています。

 

このように、国際的にも、ビットコインのマネー・ロンダリング・リスクは注目されています。ビットコインには、マネー・ロンダリングのリスクが、一定程度存在することは、間違いないと言えるでしょう。

 

ビットコインは、マネー・ロンダリングに利用されにくいとも言える

現時点で、ビットコインがマネー・ロンダリングに利用された事例がない

 

実際には、現時点においてットコインがマネー・ロンダリングやテロ資金収集に利用されたという明らかな事例は、見当たりません。

EUでも、ビットコインがテロ資金として使われたことがあったかどうか調査をしていましたが、その結果、ビットコインとテロ資金との関連性については明らかにならなかった、と発表しています。

 

ビットコインは、現時点においては安全な取引方法とされている

 

イギリス政府も、上記の2015年における調査において、「これまでに、イギリスにおいて、仮想通貨がマネー・ロンダリングに使われた事例はない」と発表しています。

 

また、同じ調査において、「ビットコインは、他のすべての資金移動手段と比べても、構造的にもっともマネー・ロンダリングに利用されにくい」と評価しています。銀行よりも、ビットコインの方が、脆弱性が低い(安全である)とされているのです。

 

ビットコインはマネー・ロンダリングに向かないという指摘

 

さらに、ビットコインの取引関係者も、ビットコインがマネー・ロンダリングに向かない理由を指摘します。

 

すなわち、ビットコインの取引をすると、すべての履歴がブロックチェーンというデータベースに記録されるため、利用者のIPアドレスを追跡調査することができます。そこで、ビットコインを完全に匿名で利用することは、困難です。匿名で利用できなければ、悪用は難しくなります。

 

また、ビットコインを現地の通貨に両替することにもハードルがあります。特に、テロ資金が問題になりやすいシリアやイラクで両替をすることは容易ではないので、テロ資金として利用される懸念はほとんどない、というのです。

 

結論的には、ビットコインに対するマネー・ロンダリング規制が必要

 

確かにこういった主張にも一理ありますが、ビットコインの取引量が増えて、普及が進んでくると、マネー・ロンダリングのリスクが高まることは、確かと言えるでしょう。

 

IPアドレスが確認できるからと言っても、IPアドレスを誤魔化す技術を持っていれば、匿名で取引することが可能ですし、現地で両替が難しいとは言っても、できないわけではなく、今後容易になる可能性もあるからです。

そこで、結論としては、やはりビットコインに対し、マネー・ロンダリングの規制を及ぼす必要があります。

 

諸外国におけるマネー・ロンダリング規制

 

実際に、ビットコインなどの仮想通貨に対し、諸外国ではマネー・ロンダリングに関する規制を敷いています。

 

たとえば、アメリカでは、2017年5月において、仮想通貨取扱い業者に対し、金融取引報告義務を課す内容の法案が提出されています。

これは、テロ組織への資金供与や脱税などを防止するため、資金に関する取引を行う業者に対し、取引の記録や報告義務を定めたもので、その対象として、仮想通貨や仮想通貨取引所が追加されたのです。

 

また、EUでも、仮想通貨のマネー・ロンダリングに対する規制を実施しています。

EUには「マネー・ロンダリング規制委員会」という専門の委員会がありますが、この委員会は、仮想通貨の取引所や仮想通貨取扱い業者に対し、厳しく監視を行っています。また、仮想通貨取扱い業者が取引をする際には、利用者の厳重な身分確認をすることが求められています。

EU諸国内では、テロが頻発しているので、テロ資金となりうる資金には、厳しい規制が行われているのでしょう。

 

日本におけるマネー・ロンダリング規制

仮想通貨交換業者にも、犯罪収益移転防止法が適用される

 

それでは、日本においては、ビットコインに対し、どのような形でマネー・ロンダリング規制が行われているのでしょう?

 

日本において、仮想通貨に対する法規制が行われたのは、2017年4月1日です。

このとき、資金決済法という法律が改正されて、仮想通貨の概念が明らかにされましたが、これと同時に「犯罪収益移転防止法」という法律も改正されました。

 

その改正により、ビットコインなどの仮想通貨も、犯罪収益移転防止法による規制を受けることとなったのです。仮想通貨を取り扱う、仮想通貨交換業者には、犯罪収益移転防止法によるさまざまな規制が及びます。

 

犯罪収益移転防止法とは

 

犯罪収益移転防止法とは、犯罪によって得られた収益をマネー・ロンダリングすることを防止するための法律です。

マネー・ロンダリングに利用される可能性があるサービスを提供する業者に対し、各種の義務を課しています。

重要なのは、「本人確認義務」と「疑わしい取引の報告義務」です。

 

本人確認義務

本人確認義務というのは、取引を行う際に、必ず対象の身分確認をしなければならないという義務です。このことにより、匿名でお金を預け入れられて、マネー・ロンダリングされることを防止出来ます。

 

疑わしい取引の報告義務

疑わしい取引の報告義務とは、マネー・ロンダリングや犯罪収益であること、テロ資金であることなどが疑われる場合において、サービスの提供業者が、行政庁に申告しなければならない義務のことです。このことにより、実際に資金洗浄が行われる前に、マネー・ロンダリングを把握して防止することができますし、マネー・ロンダリングの実行犯を特定することも可能となります。

 

仮想通貨交換業者の本人確認義務

2017年4月から、仮想通貨交換業者に対しても、犯罪収益移転防止法が適用されることとなっています。

 

本人確認を必要とする取引内容

まず、仮想通貨交換業者は、以下の取引を行う場合、本人確認をしなければなりません(取引時確認。犯収法2条2項31号、4条、改正犯収法施行令7条1項1号ヨ・タ・レ)。

 

仮想通貨取引を継続的に繰り返し行う契約

⇒アカウント開設契約などのことです。

 

  • 200万円を超える仮想通貨の売買や他の仮想通貨との交換
  • 10万円を超える仮想通貨の移転(送金)

 

本人確認の方法

また、本人確認の方法も、非常に厳格になっています。

まずは、ウェブ上で、運転免許証などの本人確認書類をアップロードさせます。その上で、その本人書類に記載してある住所宛てに、書留郵便か、宅配業者の本人限定郵便を利用して、取引関係の文書を送付しなければなりません。

 

仮想通貨交換業者の、疑わしい取引の届出義務

 

仮想通貨交換業者は、取引時に受けとった財産が、犯罪収益であると疑われる場合、行政庁に対して届出をしなければなりません(犯罪収益移転防止法8条)。

 

疑わしい取引にあたるかどうかについては、以下のような要素を考慮して、仮想通貨交換が判断します。

  • 取引時確認(本人確認)の結果
  • 取引の態様
  • 取引の性質

 

たとえば、仮想通貨取引所を利用するときに、本人確認書類の住所地に取引確認書類を送っても届かなかった場合や、不自然な取引や送金を繰り返していると、行政庁に通告されてしまう可能性があります。

 

通常の利用方法であれば問題になることはありませんが、利用者としても、仮想通貨交換業者に対しては、犯罪収益移転防止法が適用される可能性があることに、留意しておくべきと言えるでしょう。

 

まとめ

 

以上のように、ビットコインなどの仮想通貨には、マネー・ロンダリングの危険性があることが確かです。

その危険性は、今後どんどん大きくなっていく可能性があります。

 

そこで、仮想通貨交換業者に対しては、犯罪収益移転防止法が適用されることになっています。

仮想通貨取引を行うときには、こういった規制があることにも注意して、適正に本人確認書類を送付して、不自然な取引方法をしないようにしましょう。