
ビットコインのハードフォークは今年8月のビットコインキャッシュに止まりません。
10月24日には、再びビットコインからハードフォークする形で、ビットコインゴールドという新たな仮想通貨が登場しました。
取引開始後、早速ウェブサイトがサイバーアタックを受けるなど若干風当たりが強いという状況下にあるビットコインゴールドですが、実際どのような仮想通貨なのでしょうか。一緒に見ていきましょう。
背景
公式ウェブサイトによると、ビットコインゴールドの目指すゴールは、「採掘プロセスを非中央集権化すること」です。
ビットコインにおいては、取引量が比較的少なかった初期の頃は普通にパソコンのCPUを用いて採掘すなわち、ブロックチェーン内における取引を承認して新たなビットコインをネットワークに供給することが可能でした。
しかしながら、取引量が増加するにつれてCPUの持つ計算量では対応できなくなったために、GPUというプロセッサを経て、現在はASICと呼ばれる特殊なICチップを使用したマシーンを用いてビットコインの採掘が行われているという状況です。
AISCとは「特定用途向け集積回路」のことであり、ビットコインの文脈では「ビットコインの採掘に特化した」集積回路を指します。
ここで問題なのは、ビットコインの採掘向けのASICで構成された採掘マシーンは非常に高価かつメンテナンスが大変で、一般のビットコインユーザーが手軽に入手してすぐに使える代物ではないということです。
すなわち、こうした機械を持つことのできる人々は限られてしまいます。
実際、ビットコイン採掘用のAISCを用いて採掘を行なっている国としては中国が群を抜いており、情報ソースにもよりますが、ビットコイン採掘量の60〜80%を握っていると言われています。
すなわちこれは、ビットコイン採掘における中央集権が進んでいることを意味し、このために、ビットコイン本来の哲学である「非中央集権化」およびそれに伴う「検閲耐性」が脅かされるとして物議が醸されることとなります。
なお「検閲耐性」とは、ブロックチェーンにおける取引内容の改竄や、ビットコインネットワークにおける参加制限などが困難であるということを意味します。
ビットコイン採掘におけるこうした中央集権化の流れに意義を唱え、現在よりも安価な形の採掘を可能とし、初期のビットコインがそうであったように、採掘プロセスを再び「非中央集権化」させていこう、という発想の元でビットコインゴールドが生まれたというわけです。
特徴
(若干細かい内容になりますので、興味のない方は本セクションを読み飛ばして頂いても構いません)
誰でも採掘プロセスに参加できることを目指して作られたビットコインゴールドですが、具体的にこれはどのようにして達成されるのでしょうか。
ビットコインの採掘プロセスにおいてASICという特殊な機械が用いられていることは先ほど述べましたが、ビットコインゴールドにおいては、ASICを用いた採掘ができないような仕組みとなっています。
採掘を行うにあたっては、ブロックチェーン内における取引内容を承認することが必要となり、承認を行うためには特定の基準を満たさなければなりません。
ビットコインを含む多くの仮想通貨のブロックチェーンにおいては、この基準が「プルーフ・オブ・ワーク」というルールによって決定されています。
「プルーフ・オブ・ワーク」とは、ブロックチェーン内における取引承認に必要な「仕事(ワーク)」をしたことを「証明(プルーフ)」するというプロセスのことです。
ここにおける「仕事」ですが、ビットコインという文脈においては、取引承認のために必要な「計算量」のことを指し、これはビットコインにおいては SHA256 というアルゴリズム(ルール)によって、ビットコインゴールドにおいては Equihash というアルゴリズム(ルール)によって決定されます。
さて、ビットコイン採掘においてASICが用いられているということでしたが、より具体的にはSHA256に対応したASICが用いられていると言えます。
これによって採掘の権力集中が生じるわけですが、ビットコインゴールドで採用されているEquihash対応のASICを作ろうとすると、SHA256用のASICを製造する場合に比べて非常にコスト高となり、採算が合わないとされています。
したがって、ASIC登場による「脅威」の心配は現段階ではほとんどないということになります。
加えて、仮にEquihash対応のASICが製造されたとしても、パフォーマンスにおいてSHA256対応のASICより相対的に劣るという側面があります。
具体的には、SHA256下においては1秒あたり、一般的なCPUで5〜10MH(メガハッシュ)、ASICで5〜10TH(テラハッシュ)の計算量と考えられています。すなわち、CPUに比べてASICにおいてはおよそ1万倍の計算量が可能となります。
一方Equihash下においては現在、一般的なCPUで10〜30H(ハッシュ)、一方特化した機械でも1000〜3000H(ハッシュ)の程度の計算量といわれていますので、およそ100倍程度の違いとなります。また、CPUよりもさらに多くの計算が可能となるGPUを用いたならば、この差はさらに縮まることとなります。
以上のような理由によって、ビットコインキャッシュにおける採掘の権力分散化が期待されているということになります。
メリット・デメリット
さて、ビットコインゴールドの特徴を、採掘の権力分散化という側面に焦点を当てて見てきました。
同時に、これはビットコインゴールドが持つ最大のメリットでもあります。
したがって、ビットコインゴールドにおける利点は以下のようにまとめることができます。
メリット
・ASIC以外の機器(主にGPU)による採掘の可能性が広がる
・ASICを大規模に用いる採掘者たちによる、採掘における権力集中を防ぐことができる
・採掘における権力分散化が期待される
一方、ビットコインゴールドに関して懸念を示す声も少なくありません。
最大の懸念として挙げられるのが、ビットコインゴールド運営側でビットコインゴールドの「事前採掘」が行われたという点です。
「事前採掘」とは、通貨が市場で正式に取引される前に採掘を行うことです。
有名な例でいうと、ICOにおける仮想通貨の事前採掘があります。
すなわち、一般公開する前に「前売り」として公開後の価格よりも安く仮想通貨(ICOという文脈では「トークン」とも呼ばれます)を投資家に販売することによって、プロジェクト資金の確保を図っていきます。
しかしながら、新たな仮想通貨の発行という文脈で事前採掘がおこなれる場合、投資家からはあまり歓迎されません。
まず、事前採掘された通貨は通貨開発者もしくはそれに近しいグループによって保有されるのが常で、これによって資金集中に繋がる可能性があります。
開発者たちはこうした事前採掘によってタダ同然で通貨を入手することができるため、一度通貨への需要が急増したところで市場に売却すれば莫大な利益を得ることができます。
また、こうした事前採掘により得られた通貨を、運営側が大量売却した場合における市場価格の急激な下落も懸念されています。
実際、2017年10月30日現在、仮想通貨時価総額6位であるDashという通貨は総供給量の10~15%程度の通貨の事前採掘を行なったとして物議を醸しました(厳密には通貨取引開始後における発行だったので事前採掘ではなく、公開直後に大量に採掘を行う「インスタマイニング」という形式ではありましたが、実質的には似通っています)。
ビットコインゴールドにおいては総供給量21,000,000ビットコインゴールド(BTG)のうち100,000 BTG(ブロック量にして8000ブロック)が事前採掘されるようプログラミングされています。
つまり、総供給量における0.4%程度が事前採掘されるということになります。
Dashに比べると微々たる割合ではありますが、この点における懸念が存在するという事実があります。
また、冒頭で触れたように、ハードフォーク後まもなくして、ビットコインゴールド公式サイトが強烈なDoS攻撃を受けるなど、発足後から非常に風向きが強いという状況です。
加えて、ハードフォーク後に発生しうるリプレイ・アタックへの対策が、公開時点においてなされていなかったことも懸案事項の一つです。
リプレイ・アタックとは、簡単に言うとフォーク後の通貨(例えばビットコインゴールド)で支払いを行なった場合に、フォーク前の通貨(例えばビットコイン)も同時に支払われてしまうというネットワーク上の問題のことです。
意図しない形で支払いが行われてしまうわけですから、これに対する対策がないというのは問題なのです。
ちなみに、これに関しては興味深い経緯がありまして、公式サイトおける Replay Protection という項目の文言が、ハードフォーク前後において微妙に変わっているのです。
フォーク前:
In order to ensure the safety of the Bitcoin system, Bitcoin Gold has implemented full replay protection, …
フォーク後:
In order to ensure the safety of the Bitcoin system, Bitcoin Gold will implement full replay protection, …
すなわち、フォーク前に「対策済み」と言っておきながら、フォーク後には「これから対策する」と言っているのです。
この点において懸念が示されるのも自然なことかもしれません。
(なお、11月1日、リプレイ・アタックへの対策が完了したという公式声明がようやく発表されました)
さらに付け加えると、「h4x3rotab」と名乗る主要な開発者の正体が不明であると言う点も懸案事項として挙げられることがあります。
実際、執筆時現在世界仮想通貨取引高第3位の Bitrrex は、前述した事前採掘やリプレイ・アタック未対策に加え、開発者のアイデンティティ不明などを理由としてビットコインゴールドの取引を受け付けないという声明を発表しています(フォーク時のビットコイン残高に関する付与に関しては実行予定)。
以上
ビットコインゴールドのデメリットをまとめると、以下のようになります。
デメリット
・開発者たちによる事前採掘が行われている
・フォーク時においてリプレイ・アタック対策がなされていなかった
・主要開発者の正体が不明
市場動向
価格変動としては、発行当初に大幅な下落を見せた後、安定を保っているという状況です。
仮想通貨時価総額などに関する情報を公開しているウェブサイト CoinMarketCap によると、取引が公式にスタートした当初は1ビットコインゴールド(BTG)あたり50000円後半を超える勢いで推移していたのが、24時間後には20000円後半程度となり取引開始24時間で60%の下落が示されています。
さらに6時間程度経過すると15000円程度まで下落し、2017年10月30日現在においても同水準で推移しています。
ここにおいて、特に公開後2日程度における下落は、上述したような懸案事項を主に反映した結果であるといえるでしょう。
また、事前採掘によって開発者たちが保有している分が売却される可能性も考えられ、これによる下落も予想されます。
ただ、上述したように公開後の下落から15000円程度の水準で安定しており、かつ公開から間もないということあるので、ここにおける開発側からの直近の売りは考えづらいです。
したがって、開発側も含めた確定売りの時期に注意する必要があるでしょう。
取引所・ウォレット
ハードフォークの時点でビットコイン所有者に対しては同等額のビットコインゴールド(1ビットコイン=1ビットコインゴールド)が付与されましたが、これにアクセスしたり、取引ができるのは11月1日からとされています(実際、10月30日現在において公開に関する唯一の情報は、上述した h4x3rotab がビットコイン公式Slackのチャット上で発言した “after the launch on Nov1” という情報のみとなっています)。
しかしながら、付与および取引の可能性については、取引所により異なります。
扱い取引所およびウォレットに関しては国内外のものも含め公式ウェブサイトで公開されていますので、ご参照いただければと思いますが、これによれば、国内取引所で10月31日現在、取引を認可しているのはbitFlyer のみとなります。
一方、ビットコインと同等額の付与を認可している国内取引所は、以下の通りとなります(2017年10月31日現在)。
・bitFlyer
・coincheck
・BITPoint
・BTCBOX
・GMOコイン
注意点
どの仮想通貨でもそうですが、詐欺という発想を実行する人々はつきものです。
この点に関し、公式ウェブサイト上にはビットコインゴールドの名を装った偽ウェブサイトや偽ウォレットがリストアップされていますので、確認しておくと良いでしょう。
まとめ
セキュリティや開発者側の動きに関して疑問視する意見もある中で、彼らがいうような採掘の権力分散化が可能となるならば、これはネットワーク上好ましいことであり、ビットコイン本来の考え方により近い形での採掘が展開されていくでしょう。
発足後まもないコインですので、ぜひ最新の動向をしっかりチェックした上で、賢い投資・投機判断をしていきましょう。