ビットコインキャッシュとは?特徴やリスク、今後の動向を解説 

 

先日、SegWit2x 導入に伴うビットコインのハードフォークが中止となったことが話題となりました。

ハードフォークは仮想通貨界では珍しいことではなく、ビットコインをはじめとしてイーサリアムなど、様々な仮想通貨で生じている現象です。

ビットコインに関して直近の例をあげるとビットコインゴールドのハードフォークが挙げられます。

 

ビットコインキャッシュも例外ではなく、ビットコインからのハードフォークによって誕生した仮想通貨です。

それのみならず、ビットコインからの最初のハードフォークによって誕生した仮想通貨であり、仮想通貨市場における時価総額もビットコインとイーサリアムに続いて3位(2017年11月10日現在)となっています。

 

そんなビットコインキャッシュに関し、本稿ではその特徴や動向などを解説していきます。

 

ハードフォークとは

 

ビットコインキャッシュは、2017年8月1日にビットコインからハードフォークして生まれた仮想通貨です。

したがって、ビットコインキャッシュを理解するにあたっては、このハードフォークの背景を把握することが大切となります。

そして、そのためには、ハードフォークとは何かということを理解していなければなりません。

 

ハードフォークとは、イメージとしては「ネットワークのルールをあまりにも大きく変更するので、変更後の世界(ブロックチェーン)へ移行したい人は、変更前の世界(ブロックチェーン)から分裂しなければならない」という状況を意味します。

 

すなわち、「ビットコインからハードフォークしてビットコインキャッシュが生まれた」と言った場合、これはざっくりと「ビットコインのルールをあまりにも大きく変更することとなるので、ビットコインキャッシュという形で新たな通貨が作れれた」ということを意味するのです。

 

さて、ハードフォークという概念に関し大まかに把握していただいたところで、ビットコインからハードフォークをしてビットコインキャッシュが生まれた背景についてみていきましょう。

 

ビットコインキャッシュ誕生の背景

 

取引量に関する問題

 

ビットコインからのハードフォークが実施された最大の目的は、「取引量を増やす」ということです。

 

もう少し具体的にいうと、「ブロックの容量(ブロックサイズ)を増やすことによって、ブロックチェーン内における1ブロックあたりの取引量を増加させる」ということになります。

 

ビットコインにおいては取引が「ブロック」という形でまとめられ、これが鎖(チェーン)のように連なることによって、すべての取引が「ブロックチェーン」という帳簿上に記録されていきます。

 

さて、この「ブロック」ですが、ビットコインにおいては1MB(メガバイト)という容量(サイズ)に制限されています。

「ブロックサイズが1MB」と言われてもあまりピンとこないかもしれませんが、このサイズは情報量(バイト)を指しています。

 

この情報量は取引内容が複雑であればあるほど(インプットやアウトプットが多いほど、あるいはスクリプト(取引に際するルールや命令)が複雑であるほど)多くなっていきます。

ビットコインにおいては1ブロックあたり普通2000ほどの取引が記録されており、これが平均して10分程度で「承認」されていきますから、1秒あたりに換算するとおおよそ3~4取引程度が成立する計算になります。

また、理論的な最大値であっても7 tps(1秒あたり7取引)程度であるとされています。

 

一方、オルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)に目を向けると、オルトコインの代表格とも言えるイーサリアムやリップルにおける取引量はそれぞれおよそ20 tps、1500 tps となっています。

さらに、伝統的な金融機関であるVISA に至っては、最大で 56000 tps もの処理が可能であるとされています。

こうしたことからも、ビットコインにおける取引量(本質的にはブロックの容量、すなわち「ブロックサイズ」)を引き上げていこうという発想が生じる所以がご理解いただけるかと思います。仮にビットコインが VISA と同程度の規模までネットワークとして成長したならば、3~4tps 程度であるブロックサイズでは対応が追いつかなくなるのは想像に難くありません

 

なお、ビットコインにおいて1ブロックあたりの取引量が1MBに制限されているそもそもの理由は、スパムによってネットワークが滞ってしまうのを防ぐというものでした。

開発当初は取引量も現在と比べると格段に少なかったので問題はなかったのですが、取引量増加に伴って上述したような不都合が生じてきたのです。

 

手数料に関する問題

 

さらに、ブロックサイズが少ないことによって、手数料における影響も生じてきます。

 

ブロックとしての取引を「承認」し、これをブロックチェーンへと加えていく役割を担う人々(コンピューター)として「採掘者(マイナー)」が存在しますが、彼らは取引承認の報酬として、新たに「採掘」されたビットコインならびに手数料を受け取っています。

 

この手数料ですが、私たちはビットコインでの取引を行う際に自ら設定することが可能であり、これが高く設定されているほど、採掘者たちにとって魅力的であるということになります。

すなわち、より「優先的」に承認されることとなるので、取引成立に必要な時間が短くて済むのです。

逆に手数料が低ければ低いほど、採掘の優先順位も低くなり、取引成立に時間がかかってしまうということになります。

 

ここで、ビットコインにおける取引が増加した場合、仮に従来と同じ手数料を設定したならば、取引承認により多くの時間がかかることになります。というのも、ブロックサイズが限られている中で取引量が増えることで、優先順位が必然的に低くなってしまうからです。

 

したがって、こうした状況の中で採掘者たちに優先的に取引を「承認」をしてもらいたいと考える場合は、より多くの手数料を支払わなければなりません。手数料増加を拒むのであれば、取引承認時間延長を余儀なくされることになります。

 

特徴

 

こうした状況を鑑みて、取引量を増加させるためにブロックの容量すなわち「ブロックサイズ」を引き上げることを目的として誕生したのが、ビットコインキャッシュでした。

具体的には従来の1MBから8MB まで1ブロックの容量を増加させるというシステムとなっています。

 

これによって、以下の事柄が期待されています。

 

・ブロックあたりより多くの取引が可能となる

・取引時の採掘者への手数料が減少する

 

1ブロックあたりのデータ量が8倍になるのですから、VISA のネットワークほどではありませんが従来と比較して、より多くの取引が可能となるということは明白です

 

また、より多くの取引が1ブロックあたりに含まれることになれば、手数料を上げてまで採掘者たちの注意を引く必要がなくなります。したがって、取引量増加に伴う手数料は、ビットコインのシステムと比較して安くなります。

 

なお、こうした変化に対し反対する人々もいます。彼らの主張をざっくりまとめると以下のようになります。

 

・手数料減少によって、採掘のためのインセンティブが減少する

・採掘プロセスにおいて中央集権化が進む

 

手数料が減少すれば、採掘により得られる利益が少なくなることによって、採掘者として採掘に参加するメリットが減少してしまうという側面があります。

もちろん、より多くの取引が可能となったことで手数料の減少を上回るほどの利益があるという見方もあるので一概にはいえませんが、採掘のために必要となる高額な費用を考慮すると、手数料減少による影響に関して慎重になるのは自然なことかもしれません。

 

さらに、採掘プロセスにおける中央集権化という問題も指摘されています。

すなわち、ブロックあたりの取引量増加に伴い、ブロックに含まれる情報量は増加することになりますので、これを処理するコンピューターにおいて、より多くの情報処理能力が要求されます。

一方で、ただでさえ高価な採掘用のコンピューターをさらに改良するなどという話になると、どうしても膨大な資金力が必要となります。

こうしたことから、巨大な資本を有する少数の採掘グループにおける採掘の権力集中の可能性が、危惧されるということになります。

 

動向

 

ビットコインキャッシュひいては仮想通貨に限らず、市場動向を完璧に把握している人はいません。

また、後になって理由付けを試みたとしてもそれが100%正確な説明となっているという保証はありません。

本稿に関しても、このことを念頭におきながらお読み下さい。

 

さて、2017年8月1日に誕生以来、ビットコインキャッシュは24時間で300ドル台後半から700ドルへと2倍近くの上昇を示したかと思えば、8月5日には200ドル台への下落を記録しました。ここでひと段落ついたかと思いきや、8月19日には900ドル近くまで上昇するなど、取引開始1ヶ月内で激しい乱高下が展開されました。

 

ここにおける乱高下の背景の一つとして、ビットコインキャッシュにおける採掘レベルの調整に関する問題があります。

 

緊急難易度調整(EDA

 

ビットコインおよびビットコインキャッシュにおいては共に、採掘の際の難易度が自動で調整される仕組みが存在しており、ビットコインキャッシュにおいてはこれが「緊急難易度調整(EDA)」と呼ばれています。

採掘において採掘者たち(のコンピューター)はプルーフ・オブ・ワーク(PoW)と呼ばれるルールに則り、膨大な計算を行うことで新たなブロックを形成していきます。

 

ここで「難易度」というのはブロックを形成するための難易度、すなわち必要計算量のことを指しており、ビットコイン、ビットコインキャッシュ共に一定の期間(2016ブロック)ごとに難易度の調整が行われます。

すなわち、難易度が高すぎた場合は難易度を下げ、難易度が低すぎる場合は難易度を上げるということになります。

 

どうして難易度を調整する必要があるかといえば、採掘量を一定ペースに保つためです。

これは、ビットコインをはじめとした多くの仮想通貨における重要な特徴であり、伝統的な金融政策と異なり、政策担当者の恣意的な決断によって通貨発行量(採掘量)が不安定なペースで増減することを防ぐ仕組みが存在しています。

 

さて、ビットコインキャッシュにおける難易度調節の仕組みであるEDAですが、ビットコインにおける難易度調節の仕組みよりも、難易度がより迅速に調節されるように設定されています。

 

難易度に関して関心を寄せるのは、主に採掘者たちです。

なぜなら、採掘難易度が低ければ、採掘者はより簡単に利益を得ることができるからです

 

実際、ビットコインキャッシュ発足当時は、ビットコインキャッシュの採掘者は多くありませんでした。

このままでは通貨の供給が思うように進まず 、ビットコインキャッシュのネットワークが広がっていかないということになります。

そこでEDAによって難易度が自動で下げられることにより、ネットワークに採掘者をいわば「誘致」することが試みられました(「試みられた」といっても、その決定を行ったのはコンピューターですが)。

 

ここで重要なのは、採掘難易度に基づいてビットコインおよびビットコインキャッシュにおける2つのブロックチェーン上を採掘者たちが行き来するようになることで、採掘者たちが減少してしまった方の通貨のネットワークが不安定となってしまうということです。

 

実際に、発行後まもなくしてビットコインキャッシュにおける採掘の難易度が下がったことにより大勢の採掘者たちがビットコインから鞍替えしてビットコインキャッシュの採掘に参加するという状況が生まれました。

これによって、ビットコインのネットワークを維持する人員が極端に減少し 、一つの取引を「承認」してもらうために、何時間、ひどい場合は何日も待たなければならないという状況が発生しました。

 

ピーク時には採掘時に使用される計算量(ハッシュパワー)のおよそ半分(ビットコインおよびビットコインキャッシュにおけるハッシュパワーを総体として考えています)がビットコインキャッシュのネットワークで用いられるという状況でした 。

2017年11月10日22時45分現在は、ハッシュパワーのうちおよそ15%がビットコインキャッシュにおいて、残りの85%がビットコインにおいて用いられています 。

 

SegWit2x

 

さて、最近の動向を見てみると、冒頭で述べたように日本時間の11月9日、ビットコインにおける SegWit2x 実施の中止が発表されました。

SegWit2x (およびそれを構成する手法である SegWit)の詳細説明に関しては本稿の趣旨から逸れますので行いませんが、簡単にいうと SegWit2x とはビットコイン(ビットコインキャッシュではありません)のブロックサイズを2MBへと増加させるハードフォークのことです。

ハードフォークですから、ビットコインのネットワークにとって大きな影響を与えることが予想されていました。

 

ところが、これが中止されたことにより、ビットコインネットワークへの信頼低下という心理が働きました。

すなわち、SegWit2x 中止により、投資家たちがビットコインから他の通貨、特にビットコインキャッシュへと乗り換える動きを見せたのです

実際、11月9日からの24時間で、ビットコインキャッシュは600ドルから1000ドルへと、およそ66%程度の価格上昇を記録しました。

 

ビットコインABC

 

さらに、ビットコインにおける混乱もつかの間、ビットコインキャッシュにおいても11月13日にハードフォークが計画されており、新たな通貨である「ビットコインABC」が誕生する見込みです。

これからのビットコインキャッシュの動向を考えるうえで、このハードフォークの影響を無視することはできません。

 

このハードフォークにおいては新たな難易度調整アルゴリズム(DAA)の導入がなされる予定となっています。

これは、上述した緊急難易度調整(EDA)に対応するもので、開発者たちによればEDAよりも「様々な面で優れた」難易度調整を可能にするとされています。

 

したがって、仮にビットコインABCの難易度調整の仕組みがビットコインキャッシュのそれよりもはるかに画期的であるならば、ハードフォーク後においてビットコインキャッシュを売却してビットコインABCを購入する動きが生じることが考えられます。

あるいは、ビットコインゴールドがそうであったように、ハードフォーク時においてビットコインキャッシュを所有している人に対して自動的に同等量のビットコインABCが付与される可能性を考慮した上で、ハードフォークを前にしてさらにビットコインキャッシュが上昇するシナリオも予想されます。

 

今後の動向にぜひ注目していきたいところです。

 

ビットコインキャッシュを扱う取引所

 

ビットコインキャッシュに関しては、国内取引所のほとんどで取り扱われています。

以下に主なものをリストアップしておきますのでご参照ください。

 

  • bitFlyer
  • Coincheck
  • Zaif
  • BITPoint
  • bitbank
  • QUOINE

 

まとめ

 

度重なるハードフォーク(およびその中止)をはじめとして、仮想通貨界、特にビットコインとビットコインキャッシュにおいては様々な動きが展開されています。

 

こうした中、大きな出来事があると必ず「〇〇コインの時代は終わった!」とか「SegWit2xでビットコインは壊滅的な状況になるぞ!」といった具合に、世論を「盛り上げる」人々が登場することとなります。

 

一方で、あなたの資産管理において責任を担うのは彼らではなくあなた自身です。

したがって、様々な情報ソースにあたってみたうえで、表面的な「装飾」に惑わされることなく、ご自身納得のいく資産運用を行なっていってほしいと思います。