アメリカにも進出!中国をフィンテック大国にしたアリババの戦略とは

Amazonと並ぶ、世界の3大メガテックとして取り上げたいのが、アリババとテンセントです。とくに、アリババは、ECサイトをルーツにしながら、物販事業やリアル店舗、クラウドサービスなど、あらゆる事業に進出するエブリシングカンパニーとして進化をしています。また、近頃では決済機能に注力されていて、アメリカにも進出しているのです。ここでは、中国をフィンテック大国にしたアリババの戦略に迫ります。

アリババの事業概要

アリババは、1999年に現会長ジャック・マーによって創業されました。”社会問題を社会インフラで解決する”というミッションや”米国・中国・欧州・日本に次ぐ世界第5位のアリババ経済圏を構築する”という壮大なビジョンを掲げています。また、”2036年までに世界で20億人の消費者へサービスを提供すること”や”1,000万社がアリババで収益を上げること”を戦略目標としています。

アリババの事業内容

アリババの収益を見る限りでは、コア・コマースが全体の8割を占めており、アリババは今なおECの会社であることが分かります。

しかし、デジタルメディア&エンターテイメント事業の売上高は、2015年から2018年の間で200%近くの年平均伸び率を記録しています。クラウドコンピューティング事業の売上高も同期間年平均170%超の伸び率で、世界シェアではアマゾン、マイクロソフト、IBM、グーグルに次いで第5位に付けています。

ニューリテール戦略に伴い、ツァイニャオの戦略性も高まるでしょう。また、AI×ビッグデータを扱うニユマーケティングのポテンシャルの高さは、群を抜くものがあります。

※「ツァイニャオ」は中国アリババグループの物流会社

コアコマース事業

アリババのルーツであるECサイトの運営です。

B2Cの「Tモール(天猫)」やC2Cの「タオバオ」などの国内リテール、B2Bの「アリババドットコム」やサプライチェーンプラットフォーム「Lingshoutong」など国内ホールセール、「Tモールグローバル(天猫国際)」「アリエクスプレス」「ラザダ」など国際ECサービスが含まれています。

出典:世界最大規模のECショッピングモール「タオバオ」

ローカルサービス事業

ローカルサービス事業は、生鮮食品スーパー「フーマ」、飲食などの評価サービス「コウベイ」、食品デリバリサービス「Ele.me」、地図アプリ「amap」を展開しています。

デジタルメディア&エンターテイメント事業

デジタルメディア&エンターテイメント事業としては、動画配信プラットフォーム「ヨーク」「トゥドゥ」などが含まれています。

クラウドコンピューティング事業

クラウドコンピューティング事業では、データマネジメントプラットフォーム「ユニマーケティング」「アリママ」によって、Tモール(天猫)などに対してビッグデータの蓄積・解析機能が提供されています。

ロジスティクス事業

ロジスティクス事業では「ツァイニャオ(菜鳥)が中国国内全地区は24時間以内、グローバルは72時間以内というデリバリー目標のもと、アリババグループ全体の戦略的ロジスティクスを担っています。

決済&フィナンシャルサービス事業

決済&フィナンシャルサービス事業を展開しているのが「アントフィナンシャル」です。

アリババの魅力は米国に対抗するサービス

コアコマース事業・ローカルサービス事業・デジタルメディア&エンターテイメント事業を個人や中小企業とのフロントヤードと考えるならば、アリババ・クラウド・ユニマーケティング・アリママ・ツァイニャオ・アントフィナンシャルは、その事業を支えるバックヤードに該当します。

このバックヤードは、フロントヤードを支えるだけに留まるものでありません。

ツァイニャオは、最先端テクノロジーを駆使して、国内外の宅配会社で構成される物流エコシステムを構築・運営しています。アントフィナンシャルは、後述するように、アリババグループの金融事情を統合する企業です。

また、アリババ・クラウドはクラウドコンピューティングや「AI×ビッグデータ」に関わるサービスを提供し、クラウドサービスの市場シェアでトップを走るアマゾンAWSに対抗しています。

アリババ経済圏の中核を担うアントフィナンシャル

これまで、アリババの事業の魅力について解説をしてきましたが、アリババの金融事業を担うアントフィナンシャルを深堀りしていきましょう。

アントフィナンシャルが手掛ける決済・融資・視差運用管理・信用情報などの金融サービスは、ユーザーの生活をより快適にする便利なツールとして、アリババのサービス全体を支えています。アントフィナンシャルこそ、巨大なアリババ経済圏の中核に位置する企業と言っても良いでしょう。

アントフィナンシャルの歴史

サービスが誕生したのは2004年。アリババの連結子会社として「アリペイ」が設立されました。

その頃は、アントフィナンシャルは、アリババの決済を担う一部門にしか過ぎませんでした。

また、日本のソフトバンクなどの外国資本を受け入れるアリババは2011年に中国人民銀行による外資規制上の都合でアリペイの持ち株を全部売却して、連結からも外すことになったのです。

アリババが親会社から外れたため、その代理でアリペイの親会社となったのが、2011年にジャック・マー個人によって設立された中国内資会社「Zhejiang Ant Small and Micro Financial Services Company,Ldt」です。

そして、2014年10月、会社名をアントフィナンシャルに変更して現在に至っています。なお、アリペイは、2011年5月に「非金融機関支払サービス管理弁法」に基づいて中国人民銀行から事業ライセンス「支払業務許可証」を取得しています。

アントフィナンシャルが目指す目標

アントフィナンシャルは非上場のため、収益構造や連結の範囲を明らかにしていませんが、2018年4月18日のロイター記事によれば、2017年の売上高は89億ドル、税引前利益は21億ドル。中国国内でも突出したユニコーン事業です。

アリババの売上高・営業利益と比較すると5分の1の規模となっています。また、その売上高の約55%がアリペイが稼いでいると言われているのです。

アントフィナンシャルのコーポレートサイトなどによれば、アントフィナンシャルは、自らを「包摂的な金融サービスを世界に提供するテクノロジー企業」として、自らを「テックフィン」と呼んでいます。このように呼ぶ理由は「テクノロジーによって金融包摂を実現する」「ユーザーの金融ニーズに応える」という強い意志が表れているのでしょう。

実際に技術革新を通して、オープンな信用システムや金融プラットフォームを構築し、伝統的な金融機関がサービス対象にしてこなかった個人や中小企業・零細企業へ安全、便利、包摂的な金融サービスを提供する会社。それがアントフィナンシャルの目標です。

アリババ経済圏を築くアントフィナンシャルの事業内容

アントフィナンシャルは、決済サービスのアリペイ、資産運用管理のアントフォーチュン、信用スコアリングのジーマクレジット、オンライン銀行のマイバンクを傘下に持つことで、金融サービスのエコシステムを構築しています。

電子決済システム「アリペイ」

アントフィナンシャルの売上高の55%を稼ぐと言われており、エコシステムの起点とも言われているのがアリペイです。

アリペイは、Tモール(天猫)やタオバオといったアリババのECサイト、フーマやRT-MARTなどアリババが手掛けるニューリテール店舗はもちろんのこと、第三者のリアル店舗やECサイトでのショッピング、電気・ガスなどの公共彫金、交通手段や飲食・娯楽施設といった、あらゆるサービスシーンで利用することができる決済システムです。

主な機能は、スマホにインストールした「アリペイ」を通したQRコード決済です。

このQRコード決済は、原則的にユーザーにコストはかかりません。

アリペイアプリをインストールして、銀行口座と連結するなどを設定するだけで、利用できます。また、アリペイ決済を導入する事業者が支払う手数料も定額です。このことから分かるように、アリペイは、ユーザーにも事業者にも魅力的なツールなのです。そのため、中国でQRコード決済が一気に普及しました。

アリペイが実現したエスクローサービス

アリペイの魅力は手数料が安いだけではありません。アリペイ決済には、エスクローサービスも付いています。エスクローとは、取引の安全性を保証する仲介のことです。

ユーザーと販売者がお互いに顔を見ることができないECサイト取引の場合、アリペイがその取引の安全性を保証するのです。商品を購入するユーザーは、アリペイ決済を通して代金を支払います。代金は、この時点でアリペイにプールされることになり、ユーザーの支払いを販売者へ報告します。

販売者は、その報告をもって商品をユーザーへ配送するのです。

商品を受け取ったユーザーは、商品の内容を確認して、商品に問題がなければ、アリペイにプールしていた代金が販売者に支払われます。中国では、不正や偽造が多発していましたが、アリババのECサイトが飛躍的に伸びた背景には、このエスクローサービスによる安全性の保証もありました。

ワンストップ資産運用のアントフォーチュン

アリペイ決済の他にも、アントフォーチュンという資産運用のサービスも展開しています。

2015年8月にローンチされたアントフォーチュンは、株式・ファンド・ゴールド・定期などユーザーの資産をワンストップで運用管理するサービスです。

代表的な商品は2013年から始まった「余額宝(ユエバオ)」です。ユエバオは、アントフィナンシャルが出資する基金によって運用されています。アリペイアプリからアクセスすることができて、アリペイのアカウントに紐づけられています。

ユエバオの特徴は、最低1人民元から投資できること、銀行預金よりも高い金地で運用できること、アリペイ決済と連携できること、即日引き出し可能で解約ペナルティがないことです。つまり、流動性が高く、利便性に優れた金融商品であることが伺えます。

実際に、ユエバオは2017年第3四半期事典の預かり資産残高が1兆5600億人民元に達し、中国のMMF全体の23%を占めています。

またユエバオの金融サービスに一人勝ちさせまいと、世界の最大のゲーム会社として名を馳せたテンセントも「零銭通(リンセンツウ)」というモバイル決済サービスを打ち出しています。テンセントの持つアプリユーザーの強みを活かして、現在ではほぼ拮抗した争いとなっています。

他社の金融商品も販売するプラットフォーム

ユエバオと併せて注目したいサービスに、2017年6月にローンチされた金融機関向けのマーケットプレイス「財富号」があります。

出典:ANT FINANCIAL

アントフォーチュンのユーザーは、アントフォーチュンの金融商品だけではなくて、各金融機関が提供する保険や定期預金も購入することができます。金融機関にとっては、品揃えの充実でユーザーの選択肢を増やし、利便性を向上することができるというメリットがあるのです。

AIスコアを導入した貸金サービス「ジーマクレジット」

2015年1月にサービスが開始された「芝麻信用(ジーマクレジット)」は、アリババやアントフィナンシャルが蓄積してきた個人や中小企業のビッグデータをAI・クラウドコンピューティングによって解析・活用し、独自に個人や企業の信用力をスコア化するものです。

従来の与信制度とは異なる、新しい形態の審査の仕組みです。

ジーマクレジットのコーポレートサイトによれば、個人の信用スコアリングには、信用履歴・行動動向・支払能力・身分特徴・人間関係の5つの基準が設けられています。

信用履歴は取引や返済の履歴、行為動向はショッピングや金融サービスなどの利用履歴や性向、支払能力は安定収入源や資産保有状況、身分特徴は学歴や基本的な情報、人脈関係は、人脈やその信用度なのです。

アリババグループには、ECサイトでのショッピングやアリペイ決済などを通して、これらのデータが蓄えられています。そして、AI・クラウドコンピューティングによって解析されて、信用スコアがはじき出されているのです。

ジーマクレジットは、就職時などに活用できる

信用スコアは、消費者ローンに際しての個人への与信や無担保ローンに使用されるに加えて、ビザ申請、公共施設の利用などさまざなシーンでも活用されます。

将来的な信用力をスコアリングすることで、就職活動をするためにローンを組むことができるようになったのです。

中小企業を支援する融資サービス「マイバンク」

最後にご紹介するのが、2015年6月にオンライン銀行として設立されたマイバングです。

マイバンクの融資先は、アリババのサービスを活用して事業展開している事業者です。その日の仕事のために資金を必要として、その日の日当や売上で返済する層が主な顧客となります。具体的には、中小企業や個人事業主向けの「網商貸」、農民向けの「旺農貸」、MMFの「余利宝」などが取り扱われています。

コーポレートサイトによると、網商貸であれば、オンライン申し込みに要する時間は3分、融資可否の判断は1秒とされ、無担保で1人民元から融資可能です。審査は、アリババに蓄積されているビッグデータに基づいてAIが行っています。信用力に応じて、資金調達コストが低くなるというメリットがあり、従来の金融機関と仕組みが大きく異なります。

まとめ

この記事では、中国を世界最先端のフィンテック大国に変えたアリババの事業内容や、金融事業の内容を深堀りして解説しました。

アリババやアリペイによって蓄積されたビッグデータとAIを活用して、従来の金融機関とは全くことなる金融サービスを提供しているという点がアリババの最大の魅力です。急成長をしているアリババからは、得られるものが沢山あるでしょう。

フィンテック業に興味がある方は、今後もアリババの事業展開には注目してみてください。

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