世界のキャッシュレス最新事例 盒馬鲜生(ファーマーションシェン)

アリババが進めるニューリテール戦略。 その中で中核をなしているのは盒馬鲜生(ファーマーションシェン)です。ファーマーションシェンは、スーパーマーケット・レストラン・オンラインショップ・ロジスティック(物流)の4つの機能を持っています。

ファーマーションシェンとは、どのような仕組みなのか、魅力や特徴と合わせて解説します。

盒馬鲜生(ファーマーションシェン)とは


出典:盒馬鲜生

ファーマーションシェンとは、アリババがO2O(オンラインtoオフライン)戦略を行なうスーパーマーケット。2016年1月に1号店を上海にオープンしました。店舗の半径5キロメートルの範囲内に限定して、30分以内のデリバリーを実現して人気を得ています。

とくに買い物に出かけることを怠けがちな25~35歳の層を中心に人気があり、店舗の売上の半分はオンラインからの注文になっています。

ファーマーションシェンの特徴は、単なる食品中心の「スーパー」ではなく、「レストラン」、「EC向け倉庫」、「EC向け物流拠点」という4つの性格を併せ持っていることです。

店舗を中心に半径3キロ以内の商圏で、人々の生活の中心ポジションを得ることを目標にしています。とくに力を入れているのが、商品の品ぞろえと鮮度。世界中から商品を仕入れていて、さらに生産者から直接買付けた産地直送品の割合を高めています。

レストランスペースでは、購入した海鮮物などを調理してもらうことも可能です。調理された料理はレストランスペースに運ばれ、テーブルに着いてゆっくりと食事を楽しめるのです。

寿司や鍋料理などの店舗も配置され、日本でいうフードコート的なスペースとして人気があります。

アリババが注力するニューリテール分野

ファーマーションシェンは、アリババの「ニューリテール」を体感できる店舗です。アリババのジャック・マー氏が、2016年末にO2O戦略の新しいコンセプトとして語った「ニューリテール」という概念。

オンラインビジネスが今後十数年で亡くなり、オンラインとオフラインを融合した新しい小売業(ニューリテール)が誕生すると説明しました。

ニューリテールは、百貨店や家電など8つの分野で進められていますが、食品を扱うスーパーマーケットとして進めているのが、ファーマーションシェンです。

アリババの基本概要

アリババは、ジャック・マー氏が設立した中国のEコマース企業。1999年に創業し、瞬く間にアジア圏最大手のECサイトへと成長しました。現在は、複数のECサイトを運営しており、なかでもBtoBプラットフォームサービスのアリババドットコムを軸に成長しています。

BtoBプラットフォームサービスとは、世界のバイヤーとサプライヤーが行う商品の受注・発注や請求をオンライン上で行えるシステムのことです。

圧倒的なのは、2018年11月11日に10回目を迎えた独身の日。アリババはまたもや記録を塗り替え、取引金額は308億ドルを記録しました。日本円で3兆円を上回ります。アリババは2014年9月にNY証券取引所に上場。IPO(新規株式公開)規模は史上最大の250億3,000万ドル(2兆7,000億円(当時))となりました。

盒馬鲜生(ファーマーションシェン)の買い物の流れ

それでは、実際のファーマーションシェンの買い物の流れを確認しましょう。

キャッシュレス決済の専用アプリをダウンロード

ファーマーションシェンでの買い物は、アリペイというアリババの決済システムを利用します。アリババ配下の企業のため、他の会社の決済手段であるWechatpayは許されていません。中国はキャッシュレス化が進んでいるので現金を使う人はほとんどいないのですが、ファーマーションシェンは徹底しています。

ただ、原則としてアリペイ以外の支払を受付けていませんが、中国政府からの改善要求があったので、老人や子供などアリペイを使用できないユーザーのために現金での支払も受付けるカウンターがあります。

商品のEタグをスキャンしてオンラインサイトのカゴに入れる

通常のスーパーマーケットでは、入り口でカートやカゴを手にし、気に入った商品をカゴの中に入れていきます。そして、最終的にレジで支払をするという流れになります。

しかし、ファーマーションシェンでは、すべての商品にEタグと呼ばれるQRコードで認証できるタグが付いています。スマホでスキャンして商品の価格を確認したり、オンラインサイトへ移動して、商品をオンラインサイトのカゴに入れたりすることができるのです。

即時に商品が欲しい場合は「キャッシャー」で会計

その場で持ち帰りたい商品は、実際のカートに入れてキャッシャーで支払います。ファーマーションシェンでは、人工知能を搭載した無人スマートキャッチャー「ReXPOS」を採用しています。

出典:雷科技

ファーマーションシェン唯一の問題といわれているのが、レジ待ちする人の行列です。もちろん他のリテール業界より会計待ちの時間は圧倒的に短いのですが、さらなる業務改善のために人工知能を搭載した無人キャッシャーの導入を発表したのです。

ReXPOSは人工知能カメラを活用し、ユーザーが老人や子供かなどを判断し、決済画面を自動で切り替える機能が搭載されています。

雷科技のサイトでは実際の盒馬鲜生の決済方法など詳しく載っているので覗いてみると良いでしょう。

デリバリーを希望する場合は「ECサイト」で会計

重い荷物や急いで受け取る必要がないものは、オンラインサイトのカゴに入れてオンライン決済します。

ファーマーションシェンにはロジスティック(物流)部門があるので、自宅まで荷物を配達してくれるのです。ユーザーは、重い荷物を抱えて自宅まで持ち運ぶ必要がなくなるので、人気のあるサービスです。

オンラインで購入する場合も、ファーマーションシェンだけですべて調達できます。複数のオンラインショップで品物をチェックする必要もありません。

また食品の新鮮さと清潔さに関してもファーマーションシェンでは、最大限の注意を払っています。

野菜に関しては、農家から直接仕入れ毎日鮮度を保っています。通常の中国のスーパーではむき出しのままカゴに入っているのに対し、ファーマーションシェンでは日本のように野菜や果物・生肉をパックに詰めてユーザーの手に触れないようにし、清潔感を保っているのです。。

盒馬鲜生(ファーマーションシェン)の魅力

バーコードの読み込みで詳細情報を閲覧が可能

ファーマーションシェンは、半径3 km 以内のユーザーがターゲットです。想定ユーザーから支持されるため、ファーマーションシェンが力を入れているのは商品の品揃えと鮮度。来店客が陳列されている商品の値札に示されているバーコードをスマートフォンの QR コードで読み込めば、 産地や含まれている栄養など詳細な情報がスマホの画面上に表示されます。

店内の至る所にファーマーションシェンの自社アプリが告知されており、このアプリを使って注文を行います。ECだけでなく、店頭でも利用できるように設計されているのです。

アプリ内では、Alipay と紐付けられており、店頭での決済もファーマーションシェンのアプリが使用さます。ECとしてアプリを使用する場合は、Alipayを登録しているので、決済時にカード情報を入力する事なく、ワンタップで決済が可能になっています。

半径3km以内の配送対応エリアへ30分以内に配達

食品 EC は、日本でもイオンやイトーヨーカドーなど流通各社が取り組んでいます。しかし、配達には最低でも数時間かかります。配送時間が早ければいいというものではありませんが、顧客にとって大きな魅力であることは間違いありません。

世界中を見回しても、食品ECで成功している企業はほとんどありません。ファーマーションシェンの配送時間はわずか30分、店舗から半径3 km とエリアは決まっていますが、各店舗間で配送エリアに重なりが少なく、広範囲に対応できるように立地が選定されています。

複数店舗にまたがる買い物体験を1店舗で完結

店内には、ファーマーションシェンのトレーナーを着たスタッフが配置され、端末から注文を瞬時に確認できます。スタッフはオンラインオーダーを受ければ、商品をタグ付きのカバンに詰め込み、ベルトコンベアに商品を流していきます。

顧客は、ECで注文を出すこともできますが、普通のスーパーと同じように買い物カゴに入れてその場でキャッシュレス会計も可能です。

商品に添付されたEタブをアプリでスキャンすると、近隣のスーパーマーケットの値段が表示され、ファーマーションシェンの値段が割高なのか割安なのかを瞬時に判断できます。

半径3 km 以内のユーザーから支持を集めるため、ファーマーションシェンでは 商品の品揃えにこだわっています。しかも、品揃えの50%以上が海外から仕入れたものになっており、中国国内だけでなく海外も含めた多くの商品がファーマーションシェンで購入できます。

これまで日本など外国企業が中国国内で拠点を設けずに商品やサービスを販売するには、アリババなどの越境ECサイトを利用するしか方法がありませんでした。しかし、アリババがリアル店舗にも販路を広げたことで状況が変わりつつあります。

アリババと協力することで、 EC サイトはもちろん、生鮮食品中心のファーマーションシェンでも商品やサービスを売ることができるようになったのです。

盒馬鲜生(ファーマーションシェン)の今後の展開

中国ではインターネットによるオンライン取引が有名ですが、それでも中国全体の商取引量から考えると、わずか15%に過ぎません。

中国も人口が増える時代は終わり、今後はオンライン取引も飽和状態になると考えられています。今までのような成長は望めず、アリババは次の戦略を考える必要がありました。それが「ニューリテール戦略」です。

アリババは、残り85%のオフライン市場をオンラインの世界に引き込む戦略なのです。そのために、さらに次の2つの戦略を進めています。

ロボットによる店舗運営

2018年1月に、ファーマーションシェンの侯毅(houyi/ホウイー)CEOは、さらなる進歩をとげたバージョン2.0の店舗を展開すると発表しました。それは、①ロボットを活用した世界初の完全ロボット店舗、②24時間365日無休のデリバリー体制の 2つのコンセプトを持つ店舗です。

ロボット店舗では、ロボットによる接客対応により、ユーザーがショッピングする際の利便性を大幅に向上させるのが狙いです。

今後は、ロボットによる接客だけではなく、新鮮な海鮮物などの食材を購入後に調理する分野でロボットが利用されると推測されます。さらに、迅速なデリバリーの部分にもロボットが投入されるのではないかといわれています。

2018年、上海北部の南翔に中国初のロボットレストランができました。料理はほとんどロボットで運ばれて来ますが、調理は人間が行っているので、満足度はかなり高いそうです。

24時間年中無休のデリバリー体制

侯毅(houyi/ホウイー)CEOは、ロボット化だけではなく24時間年中無休のデリバリー体制を構築する店舗の開業を発表しています。ファーマーションシェンは、2017年9月から「SOSサービス」と称し、救急のデリバリーサービスを行っています。

上海の一部店舗で、毎日8時30分から22時30分までの間、消費者に対して30分以内のデリバリーを提供し、従来の店舗よりも2時間延長して深夜帯の消費者ニーズのテストを行ってきました。

ファーマーションシェンには、コンビニエンスストアよりもはるかに商品アイテムが揃っており、消費者の深夜のニーズを満たすには十分であると考えられていました。

テスト結果では、22時30分に営業を終了しても、商品に対する問い合わせが多く、深夜の商品ニーズは高いことが確認できました。テスト期間の注文から配達完了までに要する時間は、わずか18分。半径3 km 以内という限定された区画ではありますが、18分で注文した商品が届くというのは驚きの早さです。

まとめ

半径3 km 以内なら、野菜一個でも最短30分で配送されるファーマーションシェン。スーパーマーケットだけではなく、レストランやオンラインショップ、ロジスティック(物流)の機能を併せ持っています。

ファーマーションシェンはアリババが提唱する「ニューリテール戦略」の中核です。 現在でも最先端のシステムを採用していますが、ロボット店舗の開店や、24時間年中無休のデリバリー体制などさらなる成長を狙っています。

世界でも食品 EC のデリバリーで成功している企業はほとんどありません。今後、ファーマーションシェンがどこまで発展していくかが注目されます。