
1973年4月9日に稼働を開始した全銀システム。取引量の拡大やセキュリティー向上のため順次システムのレベルアップを進めておリ、現在のシステムは第6次全銀システムにあたります。さらに2018年10月より約500の金融機関が振込時間を拡大するモアタイムシステムを導入するなど利便性を高めています。
この記事では、全銀システムの詳しい内容と、第7次全銀システムに向けてどのように変わっていくのかを解説します。
全銀システムとは
企業間あるいは企業と個人の資金決済には振込が利用されますが、振込など国内の取引を行なうために銀行間で利用されているオンラインのデータ通信システムが「全銀システム」です。
1973年4月に稼働を開始し、世界に先駆けて平日日中の即時送金を実現しました。その規模や安全性において他に類がないシステムとして、世界各国の関係者の間でも「ZENGIN」と呼ばれ広く知られています。
出典:全国銀行協会
国内の金融機関が参加する広範なネットワーク
全銀システムに参加しているのは銀行だけでなく、以下のような金融機関も参加しています。
⦁ 信用金庫
⦁ 信用組合
⦁ 労働金庫
⦁ 農業協同組合
上記のように日本国内ほぼすべての民間金融機関が参加していますが、日本銀行は参加していません。また、郵政民営化によって2007年10月に発足した「ゆうちょ銀行」は、2009年1月5日に接続を開始しました。
全銀システムは、1営業日平均約675万件、12.2兆円(年間約16.5億円、約2,993兆円)の取引が行われるなど、わが国の決済システムの中核として大きな役割を果たしています。
また多額の資金決済を行うので、センターを東京・大阪の2か所に設置するとともに、回線を多重化することで運営の安全性を高めています。
第7次全銀システムの特徴
全銀システムは1973年の稼働以来、取引量の拡大やセキュリティー向上などのため、順次システムのレベルアップを進めてきました。現在のシステムは「6次全銀システム」にあたります。
第6次全銀システムでは、新たに1億円以上の振込取引を日銀ネットの即時決済システムで決済する事により、支払決済システムの国際基準に対してより高いレベルで対応できるようになりました。稼働時処理能力も、以下のように順次拡大しています。
・第1次システム:1973年(稼働時処理能力:100万件/日)
・第2次システム:1979年(稼働時処理能力:140万件/日)
・第3次システム:1987年(稼働時処理能力:500万件/日)
・第4次システム:1995年(稼働時処理能力:1350万件/日)
・第5次システム:2003年(稼働時処理能力:1500万件/日)
・第6次システム:2011年(稼働時処理能力:2000万件/日)
モアタイムシステムが導入
これまでの全銀システムは、銀行間の振込は平日8時30分から15時30分という制約がありました。しかし2018年10月から、取り扱い時間が拡大する「モアタイムシステム」を導入。24時間365日いつでも他行口座に振込が可能になり、約500の金融機関で振り込み時間が拡大しました。
ただ、すべての金融機関がモアタイムシステムに対応しているわけではありません。また銀行によって取り扱い時間も異なるため、振り込み完了まで時間がかかってしまう場合もあります。
大手金融機関でいうと、三菱UFJ銀行・ 三井住友銀行・ゆうちょ銀行などはおおむね24時間対応ですが、金融機関の一部では5時~18時だったり、8時~21時までだったりと異なります。メンテナンス対応も各行でまちまちです。
振込時間をどこまで延長するかは、各銀行の判断に委ねられているのです。しかし、全国銀行協会では顧客の利便性向上のため、最低でも18時まで延長するよう求めています。
全銀EDIシステムが稼働
出典:全国銀行協会
2018年12月25日から銀行界のシステムインフラである全銀EDIシステム(ZEDI)が稼働しました。ZEDIとは、企業や個人事業主が振込の請求書番号や商品名などの情報を、自由にたくさん添付できるようにするシステムです。
ZEDIの利用手数料は、金融機関ごとに設定されています。また、ZEDIに対応した振込電文を簡単に作成できるツールが無料で利用できます。
第7次全銀システムのメリット
24時間365日即時振込
イギリスでは2008年から即時決済に移行するなど、世界の流れは24時間365日即時決済の方向に進んでいます。アメリカやオーストラリアなどでも追随する動きになっており、日本もこの流れに続く形となっています。
利用者側のメリットとしては、24時間365日即時振込になることで、これまでのように9時から15時という時間に縛られることなく、自分の都合でいつでも送金ができるようになることです。とくに平日の15時30分~18時までのニーズは、法人・個人問わず高いとされています。
金融機関がモアタイムに参加していれば、急にお金のやりとりの必要があっても、リアルタイムで送金と受け取りができます。
スムーズな取引の実現
金融機関のメリットとしては、利用時間が拡大すればATMの混雑緩和が期待できます。また、これまでクレジットカード会社が担っていた24時間決済可能な取引が出来るようになるため、インターネット通販の振込など送金サービスを利用してもらう機会が増えることも期待できます。
経理関連業務の効率化
ZEDIにより経理業務も効率化され。事務負担が6割減るといわれています。たとえば、1月分の売り上げがまとめて振り込まれたとしても、明細が一目瞭然になるので、売掛金の消込の負担が軽減され、経理業務の効率化と生産性向上が実現できます。
消込とは、売掛金や買掛金など債権・債務の勘定科目の残高を消していく作業のことで、売掛金や買掛金がデータ上と実際の入金がズレていないかを確認していきます。
第7次全銀システムのデメリット
モアタイムシステムに不参加の金融機関もある
すべての金融機関がモアタイムシステムに参加しているわけではありません。ただモアタイムシステムの導入が決まったとき、全国銀行協会に加盟している銀行の約75%にあたる105の銀行が振込時間拡大への参加を表明。
信用金庫や信用組合を合わせると505の金融機関が参加する予定となっていました。全国銀行協会によると加盟銀行のおよそ9割の参加を見込んでおり、 2019年7月時点での参加金融機関は511となっています。
ZEDIの導入にはソフトウェアのバージョンアップが必要
ZEDIは経理業務の効率化が見込めますが、売掛金の消込作業の負担を軽減するには、支払い企業にZEDIを導入してもらう必要があります。
またZEDIが稼働しても、自社の送金システムや経理システムがZEDIに対応していなければ利用できません。現在利用している決済システムでZEDIに対応できるのか、それとも新しいシステムを導入すべきなのかを検討しなければなりません。
さらにZEDI導入に伴い、XML文書がスタートします。
XMLによるデータ記述の導入は第6次全銀システムから対応。これは、自社の経理処理だけでなく、取引する相手方企業にとってもメリットになります。XML文書は、これまでの固定長電文よりもスムーズにやり取りできるからです。
自社には不要だから急いで対応する必要がなくても、相手先企業がXML文書を導入した場合、相手先企業に不便をかけてしまう恐れがあります。ですから、XML文書にも早めに対応しておく必要があるのです。
予定される全銀ネットの今後の取り組み
携帯電話番号による送金
リアルタイムペイメント・24/365のオーバーレイ(仮想ネットワーク)サービスにおいて、携帯電話番号による送金サービスの検討や導入が進められています。リアルタイムペイメントとは、振込資金が即時に受取側に着金することです。
また、24/365とは、夜間・休日を含め24時間365日振込がいつでも可能になる決済システムです。
携帯電話番号による送金サービスは、受取人の口座番号ではなく、携帯番号等(メールアドレスが利用可能なサービスもあり)を指定することにより送金を可能とするサービス。受取人の口座情報を入力する手間が省けるだけでなく、「口座番号を教えたくない」、「携帯番号は知っているが、口座情報はわからない」といった場合でも送金が可能になるのです。
携帯電話番号による送金サービスは、銀行界全体として取組みが進められ、米国や欧州においては着実に普及しています。
不正送金の検知
リアルタイムペイメント・24/365にともなう不正送金対策として、ACHが主体となって取り組む例が増えています。ACHとは小切手に代わる小口決済手段です。ACHと連携した不正送金検知のシステムの導入にかかる検討についても各国で進んでおり、2018年9月にはイギリスの10行で導入が決まりました。
ACH間の連携
欧州では、各国でACHが運営されているほか、EBA CLEARINGが欧州内のクロスボーダーペイメントを実現させるためのACHを運営しています。EBA CLEARINGでは、リアルタイムペイメント・24/365に対応した新しい決済システム「RT1」が2017年11月に稼働を開始しました。
出典:全銀ネット調査レポート2018(PDF)
RT1には、2018年12月時点で12カ国32行が参加していて、多くは1,000ユーロまでの少額取引です。R1のセトルメント(決済日の通貨交換)については、24/365に対応した欧州中央銀行(ECB)の新しいシステムであるTIPSを使用する予定です。
ただ、TIPSのみを用いてクロスボーダーペイメントを実現できる場合もあるので、RT1とTIPSのサービスが競合する可能性があります。
AI技術の活用
最後にAI(人工知能)を利用した最新技術の事例を紹介します。
1. 米国Petametrics(ペタメトリクス)のAIレコメンドエンジン「LiftIgniter(リフトイグナイター)」
米国ペタメトリクスが開発した「LiftIgniter(リフトイグナイター)」は、AI技術により最適なWebコンテンツを構築するレコメンデーションエンジンです。レコメンデーションとは、顧客の好みを分析して、顧客ごとに最適と思われる情報を提供するサービス。
事前に定義したルールに従ったレコメンドや、「協調フィルタリング」など複数のロジックを掛け合わせたレコメンドを行なう従来のエンジンに対して、LiftIgniterは、AIが顧客からリアルタイムに引き継いだ情報に基づいてレコメンドする仕組みになっています。
出典:全銀ネット調査レポート2018(PDF)
2.三井住友銀行/JSOL
三井住友銀行は、JSOLと共同開発した AI 活用による「企業の業況変化検知システム」の利用を2018年度中に開始することを発表しました。
従来のシステムでは、取引先企業の決算書などから分析を行っていたため、業況変化を判断するのは困難でした。新システムではAI を活用し、口座の資金の流れや取引先などを分析することで、より早く業況変化を判断することが可能です。
これにより、事業支援や改善に向けた提案などを行うことが可能になります。
三井住友銀行とJSOLが2017年からGoogle Cloud Platformの開発環境で共同開発を進め、実証実験を経て既存のシステムよりも早いタイミングで業況変化を検知できるようになりました。
今後、NTT データが提供する金融機関向けクラウドプラットフォームである「Open Canvas」上のクラウドサービスとして提供する予定です。
出典:全銀ネット調査レポート2018
まとめ
銀行間の振り込みは、全国の金融機関をつなげる「全銀システム」を経由しています。全銀システムは1973年に開始され、取引量の拡大やセキュリティー向上などのため、順次システムのレベルアップを進めており、現在のシステムは第6次全銀システムにあたります。
次の第7次全銀システムに向け、2018年10月より24時間365日化(モアタイムシステム)が始まりました。すべての金融機関が対応しているわけではありませんが、約500の金融機関が振込時間を拡大しています。
第7次全銀システムに向け、モアタイムシステムのほかに全銀EDIシステムなど新しい制度が取り入れられています。今後も利便性向上のため、全銀システムは改良を続けていくことでしょう。