
「カーシェアリング」や「シェアハウス」などのシェアリングエコノミーが普及していますが、保険分野のシェアリングエコノミーが「P2P保険」です。
金融の中ではIT化の取り組みが遅れていると言われていた保険業界にも、新しい波が押し寄せているのです。保険をシェアするP2P保険とはどういう仕組みなのか、具体的な事例とともに解説します。
P2P保険の特徴
2010年ごろから新しい保険として「P2P保険」が誕生しました。P2P保険とは、peer-to-peer保険の略で、シェアリングエコノミーを保険に適用したものです。シェアリングエコノミーのサービス対象は、「モノ」「空間」「スキル」「移動」「お金」の5つに分類され、P2P保険は「お金」に該当します。
お金に関するシェアリングエコノミーとしてはクラウドファンディングが有名です。
フィナソル参考記事:クラウドファンディングについて
クラウドファンディングの仕組みをP2P保険に置き換えれば、利用者は同じリスクに対して興味がある出資者を募り、保険料を出し合うということになります。つまり、一つの保険を「グループ購入する」仕組みで、同じ保険の加入者同士がつながることで保険料を抑えられるということです。P2P保険の詳しい仕組みは以下の通りです。
1.友人同士や同じリスクに対する興味のある集団で保険料の拠出(プール)を行なう
2.事故が発生し保険金請求が行われたときは、プールから保険金が支払われる
3.保険期間満了(通常1年)にプール残高が残っている場合は、保険金請求を行わなかったメンバーに資金が戻される(キャッシュバック)か、次年度割引が適用。
P2P保険の明確な定義はないものの、海外では主に次の3つに分類できます。
1.ブローカー型
主な企業
⦁ insPeer(フランス)
⦁ VouchForMe(旧名称: Insurepal)
保険商品自体は通常と変わりありませんが、保険ブローカーなどがP2P保険の仕組みを運営する方式です。
2.キャリア型
主な企業
⦁ Guevara (英国)
保険会社が P 2 P 保険の仕組みを運営する方式。
3.相互救済制度型
主な企業
⦁ Teambrella (米国)
プラットフォーム提供者が相互救済制度を運営する方式。相互救済制度とは、組合員が抱えるリスクについて、組合員から組合へリスク移転をせずに組合員間で直接リスクの分担負担を行う仕組みです。
P2P保険のメリット
P2P保険のメリットは、キャッシュバックや次年度割引制度を導入することで、保険事故を起こさないインセンティブが発生することです。P2P保険のパイオニア的存在は、2010年にドイツで設立されたFriendsuranceです。
Friendsuranceによると、従来の保険モデルでは利用者の手元に戻る金額は支払った保険金総額の30%程度だったのに対し、P2P保険では利用者の80%がキャッシュバックを受けているといいます。
保険会社にとってもメリットがあります。利用者の他のメンバーに対する責任感から、不要・不正な請求が減り、事故自体も減るからです。
また、友人のつながりを前提にしているので、離婚や失業など生活上のあらゆるリスクを保険商品にすることも可能になります。
P2P保険のデメリット
キャッシュバックや次年度割引が前提となるため、保険会社の収益が下がってしまいます。海外では保険会社ではなく、代理店形式で行っている会社もありますが、その場合はユーザーへのキャッシュバック率が低くなってしまいます。
ユーザー間でも、キャッシュバックが受けられるかどうかはグループの他のメンバーに左右されてしまいます。保険金の請求があった場合は、グループ内で不公平感が出ることもあるのです。
また、日本では存在しない仕組みなので認可取得に時間がかかります。さらに既存の保険商品では想定していなかった仕組みであるため、システム開発などに時間がかかるというデメリットもあります。
P2P保険の事例「JustInCase」
出典:JustInCase
AI保険を採用したスマホ補償サービス
スマホを落として液晶画面が割れてしまっても、修理代がかかるのでそのまま使っているという人も多いでしょう。そんな状況に陥らないための保険サービスが「JustInCase(ジャストインケース)」です。スマホの破損や故障、盗難紛失時に保険金が支払われます。
JustInCaseの仕組み
モニタリング内容
JustInCaseは、90秒程度で簡単に加入でき、月々356円からの低価格の保険料が特徴ですが、一般的なスマホ保証サービスとは大きな違いがあります。保険を使わなければ、3ヵ月ごとに保険料が割引されるのです。
携帯電話会社などが用意している保証サービスは一律料金です。しかし、スマホの使い方によって、故障するリスクは異なります。
JustInCaseでは、スマホ保険でも医療保険や自動車保険のように、リスクに応じて保険料を変えるようにしているのです。具体的には以下のようにして保険料が決まります。
1.スマホ利用の安全性に従い、人工知能(AI)が安全スコアを算出
2.安全スコアによって、更新時保険料の割引額が決定
3.JustInCase独自のAIアルゴリズムにより、保険金の不正請求を防止
スマホを落としてしまうなど破損につながるような行動を人工知能によって判定し、スマホを安全に使えば使うほど安全スコアが高くなる仕組みです。保険加入は中古iPhone、SIMフリーiPhone購入時など任意のタイミングで可能となっています。
ジャイロ加速度センサー
JustInCaseが着目したのは、スマホに搭載されているジャイロセンサーと加速度センサー。これらのセンサーを使えば、スマホに加える振動や動き、落とした際の衝撃まで感知することが可能です。
スマホの向きや動きを認識するので、落とした回数も測定できます。頻繁に落とす人は故障のリスクが高くなるため、保険料の割引率が下がります。
故障のリスクが低いと安全スコアが高まり、割引率は40%程度になります。しかし、安全スコアが低い人の割引率20%程度にとどまるのです。
歩数
アプリがバックグラウンドに入ると、ジャイロセンサーや加速度センサーなどの情報が取れなくなります。バックグラウンドとは、アプリをスマホの画面上で操作していない状況です。
しかし、位置情報を常に許可していれば、バックグラウンドでもジャイロセンサーや加速度センサーが働き、歩数などの情報が取得可能です。その結果、安全スコアを精密に計算することができるのです
利用者の活動量
歩数などの情報とともに、スマホのセンサーや位置情報を取得し、スマホの取扱状況や利用者の活動量を把握して安全スコアを計算しています。保険料は使っているスマホの機種によって異なりますが、月額400~900円程度になります。ここから、安全スコアに応じた保険料の割引が受けられるのです。
JustInCaseのターゲット層
それでは、JustInCaseが想定しているターゲット層はどのような人たちでしょうか。具体的に見ていきましょう。
最新のiPhoneに買い替える人
現在の保険対象はiPhoneです。保険料は機種によって異なります。新しいiPhoneを購入するときJustInCaseに加入しておけば、万一のときでも安心です。機種ごとの保険料金は以下の通りです。
出典:JustInCase
スマホの画面を割った経験のある人
保険金は、破損や故障、盗難紛失時などに支払われます。数百円の保険料で修理費が補償されるので安心です。これまでにスマホの画面を割った経験のある人は加入を検討するべきです。
スマホ保険といえば、AppleCareやドコモ・ au・ソフトバンクなどキャリア保険を思い浮かべる人も多いでしょう。知名度がある保険ですが、保険料が高額だったり、修理代金が全額保障されなかったりなどの問題があります。
JustInCaseのスマホ保険なら、低価格でも最大修理費用は141,800円。ほとんどの修理代金を賄う事ができます。
SIMフリーにして複数のデバイスを持っている人
AppleCareやキャリアは、自社で購入した新品スマホしか保険をかけられません。しかし、JustInCaseなら保険加入は中古iPhone、SIMフリー iPhone購入時など任意のタイミングで可能です。
格安 SIMに移行する人は中古のスマホを持っている人が多いのですが、複数のデバイスを持っていても、JustInCaseに加入できるのです。
JustInCaseのメリット
中古のスマホも保険の対象
JustInCaseのターゲットは格安スマホ対象者です。格安SIMに移行する人は中古のスマホを持っている可能性が高く、JustInCase では中古のスマホも保険の対象になっています。
キャリアの保証ではほぼ新品しか対象になっていないので、これは大きな違いと言えるでしょう。また「購入から何ヵ月以内の端末」といった制限もないので、ほとんどのiPhone が加入できます。
安全スコアで保険料を最適化
安全スコアとは、スマホの扱い方の安全性を数値化したものです。50点が平均で、その場合の更新時保険料の割引率は30%になります。JustInCaseのスマホ保険に加入している人が、どれくらい安全にスマホを使っているか数値化しているのです。
ユーザーは安全スコアを毎日確認して、自分のスマホの扱い方が安全だったか知ることができます。
安全スコアは、スマートフォンに搭載されている位置情報(GPS)などのデータを人工知能(AI)が分析。AIがスコアの審査をしているので、人間のように感情や体調によって判断が左右されることはありません。常に客観的にデータを分析してくれるのです。
安全スコアにより、保険料が割引されるのは大きな魅力です。実際、JustInCaseのスマホ保険に加入した人の46%は保険料の金額が決め手だと答えていて、加入者の平均割引率は27% となっています。
家族や友人と保険料をシェアできるP2P保険
JustInCaseには「友達プール」という仕組みがあります。友達と一緒にJustInCaseのスマホ保険に加入し、みんながスマホを大事に利用すると保険料が安くなる仕組みです。友達プールの人数は10人程度。実際に知り合って関わりを築ける数にしているのです。マイページから友達プール内の友達の安全スコアも確認できます。
もし高い安全性を維持すれば「スマホを大切に扱う人」という評価を仲間から得ることも可能です。友達プールなら個人の頑張りが全員の利益になるので、みんながスマホを大切に使うようになるというメリットがあります。
JustInCaseは、保険業界でテクノロジーを使っている好例です。
少額短期保険業者としての登録を済ませ、保険業務の事務やリスク管理の部分では従来のやり方を踏襲しています。しかしスマホ保険といった新しいタイプの保険で、これまでの保険業界に足りなかったマーケティングや顧客サポートの技術をしっかりと取り入れているのです。
まとめ
日本ではP2P保険はあまり普及していません。しかし、JustInCaseは「スマホ保険」という新しい分野でP2P保険を活用して成功しています。スマホを大切に扱えば保険料が安くなるという新しいタイプの保険です。
保険料の算出にAIを利用していることも特徴です。人間のように感情や体調に左右されず、客観的なデータが分析でき、利用者が結果をいつでも確認できます。
今後も新たな仕組みであるP2P保険を使って、これまで日本では考えられなかったような保険サービスが誕生する可能性も高いでしょう。