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ダイナミックプライシングが導入企業に与えるメリットとデメリット

近年、スポーツ観戦やコンサートなどで「ダイナミックプライシング」を導入することが増えています。ダイナミックプライシングとは、チームの人気などによってチケット価格が変動することです。

この記事では、ダイナミックプライシングの特徴とメリット・デメリットについて詳しく解説します。

ダイナミックプライシングとは

市場の需要に応じて価格を変更する方法

ダイナミックプライシングとは、市場の需要と供給の状況に応じて価格を変えることです。変動料金制や動的価格設定とも言います。近年では、AI(人工知能)が価格を決める方法が広がり、さまざまな分野で実証実験や導入が始まっています。

これまでも、ゴールデンウィークやお盆など大型連休時には飛行機やホテルなどの宿泊施設の料金が高くなっていました。普段なら高すぎて利用しないような料金でも、その期間しか休めない人が多いので需要が増え、価格が高くても購入してしまうからです。

一方、閑散期には値段を下げて販売します。飛行機では早割、宿泊施設では眺望がよくないなど人気が低い部屋の値段を下げるのもダイナミックプライシングの考え方です。

AI(人工知能)によるプライシング

これまでの価格は、経験によって人が決めていました。

しかし、最近ではAI(人工知能)を利用する動きが広がっています。AIでは、ビッグデータを用いて価格を決定します。ビッグデータとは、一般的なデータ管理や処理ソフトウェアでは扱うことが困難なほど巨大で複雑なデータのことです。

販売実績や在庫などの自社情報だけでなく、天候やイベント、SNSなど膨大な情報を分析して、最適な値段をAIが決定してくれます。人が決めるよりも、はるかに多くの情報を分析でき、データを蓄積するほど精度も上がります。

AIを用いればほぼリアルタイムで価格を決定できることから、価格決定にAIを導入する企業は増えていくでしょう。購入側もAIが示す納得の価格でサービスを受けることができるので満足度が向上します。

ダイナミックプライシングのメリット

市場に合わせた価格による収益の最大化

ダイナミックプライシングは、繁忙期など需要が高まる時期に商品やサービスの価格が値上がりしますが、需要が下がる時期に値下がります。

企業は、季節変動や天気・イベントなどによる需要と供給に柔軟に対応でき、収益の最大化を図る事ができます。とくにイベントやスポーツなどは、天気など外的要因に影響を受けやすいので、ダイナミックプライシングを導入する必要性が高いといえるでしょう。

またスポーツ観戦やコンサートの座席の場合、見やすい位置かどうかで価格を変えることもできます。見やすさを取るか安さを取るかを観客側が選ぶことができ、選択肢がさらに広がるのです。

大量に抱える在庫問題を解決

ダイナミックプライシングは、市場の需要に合わせて柔軟に価格を変えることができるので、収益の最大化が期待できます。需要が高い時期には、価格を上げても高額で売れます。需要が下がる時期でも、価格を下げれば売れる可能性があります。

大量に在庫を抱えるリスクが下がるので、企業側にとってダイナミックプライシングは大きなメリットになるのです。

AIを導入したダイナミックプライシングは、EC市場にも大きな影響を与えています。ECとは、モノやサービスの受発注がコンピュータネットワークシステム上で行われることです。

国内のEC以上はすでに16兆円を超える市場規模になっています。

参考資料:経済産業省(PDF)

スマートフォンなどの普及により、今後もEC市場は拡大を続けていくでしょう。EC市場のオンラインストアは、多くのライバルとしのぎを削っているので、利益を確保するのは困難です。

しかしダイナミックプライシングを利用すれば、リアルタイムで価格を変えることが可能です。顧客の需要と供給に合わせて適切な価格を設定する事ができれば、大きな在庫を抱えることなく収益を最大化することができます。

需要と供給に即した販売戦略をとれば、年末年始など限定的に行っていたセールも時期に関わらずできます。需要調査を適切にし、その時期しか買うことができないと消費者が判断すれば、売れる可能性が高まるからです。

ダイナミックプライシングのデメリット

導入前にはデータ収集・分析が必要

導入メリットが大きいダイナミックプライシングですが、企業側がやり方を間違えれば消費者からの反感を招きかねません。需要が高い時期でも、あまりにも価格が上がると消費者は不満を覚えるからです。

適切なダイナミックプライシングを行なうためには、需要や供給に関するあらゆるデータを集め、統計学やAI(人工知能)を活用して最適な価格を構築する必要があります。

ダイナミックプライシングは、さまざまな外的要因を踏まえた上で市場の需要を把握し、最適なプライシング(価格設定)をしなければなりません。

ただ外的要因には、競合他社の価格だけでなく、天気やイベント、SNSの評判など多岐に渡ります。消費者に「価格をつり上げている」と不信感を与えないような価格設定を行なう必要があるのですが、難しい面もあります。

ダイナミックプライシングの導入がすすんでいるホテルなどの宿泊業界を考えてみましょう。ホテル側が注意しないといけないのは、需要変動要因である要素をAIなどのシステムが把握できず、想定外の値上げや値下げをしてしまうことです。

たとえば、ホテルの近くで毎年コンサートなどのイベントが行われていた場合、開催期間前後の宿泊料金は自動的に値上がりします。しかし、主催者側の都合で急遽イベントが中止されても、システムで事前に把握できずに宿泊料金が値上げしたままになっていたとします。

その場合、ホテルに宿泊する人は減り、予約も入らなくなってしまうでしょう。事前に想定されるリスクには強いものの、突発的な出来事に対応できないリスクがあるのです。

委託する場合はコストがかかる

ダイナミックプライシングを導入するためには、自社の商品やサービスがどの時期にどの程度売れるとかということをきちんと把握する必要があります。価格設定を間違ってしまうと、売上が減少してしまうからです。AIで分析する際も正確なデータに基づいた判断が必要です。

しかし、そのためには統計学やAIなどの知識が必要になります。自社でダイナミックプライシングが行えない場合は、外部に委託しなければなりません。

委託する場合は、代行費用や価格決定までに時間がかかってしまうのがデメリットになります。

リアルタイムに価格設定できるのがダイナミックプライシングの強みですが、時間とコストがかかってはそのメリットが十分に活かせません。また、緊急時でも代行業者が営業時間外だった場合は、自社でやる必要があるので負担が増えてしまいます。

ダイナミックプライシングの導入企業

米国スポーツ業界

ダイナミックプライシングは米国が発祥といわれています。

とくに、北米の4大スポーツのNFL(プロアメリカンフットボールリーグ)MLB(メジャーリーグベースボール)NBA(プロバスケットボールリーグ)NHL(プロアイスホッケーリーグ)観戦チケットでは、ダイナミックプライシングの導入が一般的です。

メジャーリーグのワールドシリーズや有名選手の引退など価値の高い試合はチケットの価格も上がります。

さらに、開催当日の天候やチームの順位までがチケット価格に影響しているのです。

以前は、米国でもスポーツ観戦チケットは一律というのがあたりまえでした。しかし、ダイナミックプライシングによるチケット販売が改革をもたらし、チケット収入が大幅に伸びたチームが増えたのです。

米国でダイナミックプライシングのシステムを提供している企業として、「QCUE」が有名です。AIを用いてチームの状態や試合の価値を数値化し、統計学でチケット価格を決定しています。

出典:QCUE

それでは、スポーツ観戦の価値とは何でしょうか。人気のあるチームや、オールスターなど特別な試合に価値があるのは確かです。しかし、それ以外にも様々な要素があります。

たとえば、試合の開催時期の天候や、座席、平日か休日かなどもファンがチケットを購入する大切な要素です。ダイナミックプライシングでは、それらすべてを数値化して分析します。

そして、顧客満足度と企業の利益が最大化する価格を決定するのです。

ダイナミックプライシングで導き出される価格はやみくもに高いものであってはいけません。購入側も満足する価格でなければならないのです。

ダイナミックプライシングを導入すると、チケット価格が上がってお金がないと試合を見に行けないと思うかもしれませんが、条件があえば、通常よりもチケットを安く手に入れられる可能性もあります。

米国ではリアルタイムでチケット価格が変動しているチームもあります。

ダイナミックプライシングを導入しても、チーム独自のカスタマイズを行いながらチケット価格を決めているので、通常料金よりも高いときもあれば、安いときもあるのです。

オリックス・バファローズ

出典:オリックスバファローズ公式HP

日本のプロ野球でも、ダイナミックプライシングが導入されています。

たとえば、2019年7月16日のオリックス・バファローズ対楽天ゴールデンイーグルス(京セラドーム大阪)の試合観戦チケットは、ダイナミックプライシングで価格が決定されました。

オリックス・バファローズがホーム(京セラドーム大阪)の試合でダイナミックプライシングを導入したのです。

試合日程や天候・席種などに関するデータ分析を基に、試合ごとの需要予測を行っています。

需要に応じた価格変更を自動で行うことで、プロ野球ファンのニーズに応じた適正価格で販売を行う仕組みです。ダイナミックプライシングによる購入では、タイミングにより価格が変動します。

価格の上限や下限はなく、状況によっては自由席の方が指定席よりも値段が高くなるという可能性もあるのです。

価格設定には、過去のオリックス・バファローズのチケット販売実績と販売期間中の販売実績を基に、ダイナミックプラス株式会社独自の算出技術を活用しています。

ダイナミックプラス株式会社

ダイナミックプラス株式会社とは、ダイナミックプライシングを算出して提供する会社です。

ダイナミックプライシングの需要が高まる中、2018年に三井物産株式会社とヤフー株式会社が提携して設立しました。ダイナミックプラス株式会社には、チケット事業大手の「ぴあ株式会社」も出資。

スポーツ観戦やコンサート、テーマパークなどのチケットプライシングを主とした事業展開を行っています。ダイナミックプラスは、ファンにとって以下のような価値に見合った価格を提供しています。

出典:ダイナミックプラス

ダイナミックプラスの価格算出アルゴリズムは、米国Neustar社で開発されたものがベースになっています。

Neustar社のアルゴリズムは、世界最大のチケットプレイガイドであるTicketmasterで採用されており、これまで累計8千万枚以上のチケットを販売しています。

ダイナミックプラスはスポーツやコンサートなどのチケットのみならず、ホテルや駐車場といったサービス産業にも進出しているので、今後のさらなる活躍が見込まれています。

エイベックス

出典:エイベックス公式ロゴ

2019年6月、エイベックス・エンタテインメント(AEI)は、ダイナミックプラスの株式の一部を三井物産より取得して提携。

音楽・コンサートなどのライブエンターテイメント分野における、ダイナミックプライシングの導入に取り組んでいます。エイベックスがダイナミックプラスに出資したことにより、ダイナミックプラスの出資構成は以下のようになりました。

* 三井物産       59.2%
* ヤフー        34%
* ぴあ         3.4%
* エイベックス(略) 3.4%

ダイナミックプラスは、プロ野球やJリーグなど、プロスポーツ観戦チケットへのダイナミックプライシング導入を中心に活動しています。

AEIと提携したことにより、今後は音楽やコンサート分野でのダイナミックプライシング拡大を狙っているのです。

まとめ

ダイナミックプライシングは市場の需要に応じて価格を変えるシステムです。

スポーツやコンサートのチケットで導入が進んでいます。以前は人によって価格が決められていましたが、最近はAI(人工知能)によるビッグデータ分析が普及しています。

AIを用いたダイナミックプライシングを導入することで、不要な大幅値引きや過度な在庫を抱えるリスクを減らすことができるからです。ただ、ユーザーも納得するような価格を提示する必要があります。

AIは、利用すればするほどデータが溜まり、精度も上がります。企業とユーザーお互いが満足できるような価格設定が望まれます。