最先端のアフリカ・フィンテック!経済を大きく変えた電子マネー「M-PESA(エムピサ)」

ケニアのGDPの4割がM-PESAの取引

M-PESA(エムペサ)とは、ケニアの電子マネーシステム。

携帯電話のショートメッセージを使って送金するサービスで、「M」はモバイル、「PESA」はスワヒリ語でお金を意味します。エムペサはケニア全土で広く使われており、都市部だけでなく、無電化の農村部にも普及しているのです。

M-PESAの影響によるフィンテック分野の投資額も拡大

日本でも「LINE Pay」や「楽天スマートペイ」などの送金サービスがありますが、十分普及しているという状態ではありません。しかし、ケニアでは公共料金の支払いから給与の受取りまでエムペサで行われていて、GDPの4割を超える金額が動いているといわれています。

ケニアでは、電気や水道といったインフラが整備される前に、モバイル決済であるエムペサが普及しているのです。

エムペサは、通常の電波を使います。そもそもパソコンはあまり普及していなかったので、ネット回線の使用率は低かったのです。通常の電波を使うことにより、ガラケーでも送金が可能というのが大きな特徴です。

情報はSIMカードに集約

エムペサのアカウント情報は、携帯電話のSIMカードに集約されています。

ケニアでは18歳になると国民IDカードが配られ、それを利用してSIMカードを購入します。その結果、携帯電話が国民の身分証明書の1つとなっているのです。万が一SIMカードを無くしても、アカウント残高と一緒に再発行が可能です。

ケニアのM-PESAを使用して実現できること

出典:mpesa公式サイト

それでは、エムペサに備わっている基本性能について説明します。

送金

送金は、相手の携帯番号・金額・暗証番号を入力したショートメッセージを送信するだけで可能です。エムペサの口座から任意の相手に、簡単にお金を送ることができるのです。

引き出し

近くのエムペサ代理店でお金を引き出すことも可能です。金額・取扱店番号・暗証番号を入力し、身分確認をすれば、その場で現金を受取れます。

お金を引き出したり入金したりできるエムペサの取扱店は、街や村のいたる所にあります。

大きなスーパーだけでなく、個人商店のような小さな店舗でも対応しているので、郊外でも当たり前のようにエムペサが使えるようになっているのです。

通話料購入

エムペサのアカウントから、通話料を購入することも可能。自分の通話料だけでなく、他の人の通話料も購入できます。

銀行口座機能

エムペサとは別の登録が必要ですが、通常の銀行口座の機能も利用できます。預金をしたり、ローンを組んだりすることが可能です。

支払・決済

電気代や水道代などの生活費や学費などの支払いも、エムペサで自動決済できます。

M-PESAが成功した理由

続いて、エムペサがケニアでこれだけ成功した理由について見ていきましょう。

携帯電話の高い普及率

エムペサは2007年に始まった新しいサービスですが、ケニア国民の70%が利用し、ケニアGDPの4割以上がエムペサによって取引されていると言われています。最近ではケニアだけでなく、南アフリカやインド、ルーマニアなどまで利用が広がっています。

ケニアでエムペサが普及した理由の1つとして、極めて高い携帯電話の普及率があります。2台持ちの人も多いため、携帯電話の普及率は成人人口の100%を超えているともいわれています。とはいえ、スマートフォンは高価なため、通話とテキストメッセージが中心のフィーチャーフォン(日本のガラケー)がほとんどです。

エムペサはフィーチャーフォンでも簡単に利用できるので、ケニアの人々にとって身近なサービスとなったのです。

ケニア人の生活にマッチ

エムペサは、都市部・農村部それぞれにマッチングしたサービスです。都市部では、現金よりも電子マネーで決済したほうが便利なため、現金を持ち歩かないスタイルが主流です。ですから、エムペサを決済か送金のために利用しています。

一方、農村部は半自給自足の地域も多いので、すぐに現金が引き出せるエムペサは便利なサービスです。農村部では、お金の受取や出金のためにエムペサを利用しているのです。

都市部・農村部それぞれの用途が異なり、国民全員のニーズにマッチしたサービスといえます。

簡単な口座開設が魅力のM-PESAの特徴

出典:mobileworldlive

店頭にてデポジットする簡易性

エムペサの魅力は、口座開設が簡単にできるという点です。

都市部だけでなく、農村部の商店街にも必ずエムペサのエージェント(代理店)があります。エージェントではパスポートで本人確認をし、SIMカードとPIN番号を提出。

そして、現地通貨であるケニア・シリングをデポジット(預かり金)するだけでエムペサを利用することができます。手続きはわずか5分で終わり、手数料もかかりません。携帯電話さえあれば、誰でも簡単にエムペサを始められるのです。

シンプルな操作性と入金時の手数料が無料

エムペサでの送金は、相手の携帯番号に金額を指定して送るだけ。

シンプルなテキストメッセージを使うだけで済みます。また、送金時の手数料はかかるものの(約10%)、入金時の手数料はかかりません。

誰でもエージェント(代理店)になれる

簡単に口座開設でき、手軽に送金できることから、爆発的にケニアで普及したエムペサですが、携帯電話を持っていれば誰でもエージェント(代理店)になることも可能です。

ケニアでのエムペサの店舗数は約10万軒。

日本のコンビニが約5万店なので、いかにエムペサの店舗が多いかわかります。個人経営の小売店でもエムペサの代理店をやっているので、郊外でも当たり前のようにエムペサが使えるようになっています。

セキュリティが高い

エムペサに預けた資金は、政府の規制のもとに商業銀行へ預けられ信託されます。エムペサは通信会社のSafaricomの携帯回線を利用していますが、Safaricomが倒産しても資金は守られるようになっているのです。

エムペサの資金は商業銀行から供給されていて、資金移動はすべてSafaricomによって監視。ケニア中央銀行へも定期的に報告がなされているので、銀行並みの監視体制になっているのです。

エージェントは事前にエムペサを購入しており、顧客が現金を引き出す時はエージェントから購入するという形になっています。ですから、エージェントと顧客は現金を売買しているという仕組みになっているので、エージェントが顧客のお金を盗んだりすることはできません。

また、口座開設は短時間でできるもの、身分証明書やSIMカード・PIN番号が必要。通常の銀行口座を開くよりも、認証は厳しくなっているのです。

M-PESAの問題点

詐欺や脅迫への対策がない

エムペサは非常に便利なサービスですが、詐欺や脅迫に対する対策がありません。手違いでお金を送ってしまってもキャンセル不可。すべて自己責任で対応する必要があります。

送金手数料がかかる

金額によって異なりますが。100ケニア・シリング(約130円)程度の小口送金では、10%程度の送金手数料がかかります。入金は無料でできますが、送金には手数料がかかるので注意が必要です。

M-PESAが登場したことにより起きた革命

アフリカでは新興企業の勃興がめざましく進んでいます。これまでビジネスに不可欠な金融や物流といったサービスが整っていないことがアフリカの大きな課題でした。しかし、携帯電話の普及に伴い、エムペサのような決済機能を提供する企業が急成長。

他にも物流サービスなどの企業も相次ぎ誕生しています。企業が政府に代わり、人々やビジネスのインフラを供給しているのです。

無電化地域に太陽光発電システムを割賦販売するM-COPA

ケニアのナイロビは、「シリコンサバンナ」と呼ばれ、米国のシリコンバレーのように急成長を遂げるスタートアップが集まっています。

そんなシリコンサバンナを代表する企業の1つが「M-KOPA(エムコパ)」です。電子マネーのM-PESA(エムペサ)を使い、1日50セント(約55円)と少額の割賦方式で太陽光発電を販売しています。

出典:m-kopa公式サイト

エムコパは2011年にケニアで設立され、ケニア・ウガンダなど東アフリカでの累計販売台数が60万台を超えるソーラーホームシステム事業のリーディングカンパニー。

サハラ以南の地域(サブサハラ)では、6億人以上が未電化地域に住んでいるといわれ、照明や炊事には灯油が使われています。そのような地域に、太陽光発電による電気の供給を行っているのです。

エムコパは、住居の屋根の上にソーラーパネルを設置。太陽光発電で照明や電化製品を稼働させています。

また、再生可能エネルギーである太陽光発電を利用することで、化石燃料である灯油の使用量を削減し、環境問題にも貢献しているのです。

太陽光販売を促進させる仕組み

顧客は、エムコパのソーラーホームシステムを割賦方式で購入し、少額を毎日モバイルマネーで支払います。支払いを1年続けると信用力が認められ、テレビやスマートフォンなど他の製品も購入することが可能になります。

国営電力を利用すると毎月の電気代がかかりますが、太陽光発電は初期投資を払えば月額料金がかからないというメリットがあります。そのため、太陽光発電の普及が進んでいるのです。

M-KOPAの成功の理由

太陽光発電システムは素早く設置でき、灯油ランプと違ってニオイが部屋にこもりません。ケニアでは送電網から電気を得ている家庭では頻繁に停電が起こりますが、太陽光発電ならめったに停電しません。

エムコパが普及している東アフリカは、エムペサなど携帯決済の普及率が高く、太陽光発電装置の月額費を携帯で簡単に決済できます。

これが、エムコパが成功したもっとも大きな理由と考えられます。

M-PESAのサービスが日本で普及する可能性は?

日本では、「LINE Pay」がエムペサの長所を取り入れたサービスといえます。

LINE Payは、LINEが提供するキャッシュレス決済・送金サービス。店舗やオンラインショップでの支払いに利用できるほか、友人同士での送金・割り勘も簡単に行なえます。

フィナソル参考記事:LINE社が築きあげる新キャッシュレス経済圏LINEPayの仕組みを解説

エムペサがケニアで普及したのは高い携帯電話の普及率ですが、LINEもすでに3000万人以上のアクティブユーザーがいるので、LINE Payが伸びていく可能性は十分あります。

LINE Payのメリットは、クレジットカードがなくても電子取引が可能だということです。

クレジットカードを持っていなくても、コンビニや銀行から直接チャージできます。とくに、インターネットオークションや飲み会での割り勘など、少額での個人間のやりとりをLINE Payで行うと便利です。

LINE Payがエムペサのように普及するには

認知度を上げる

日本のキャッシュレス決済の普及は進んできているものの、個人間でお金をやりとりするシステムはあまり認知されていません。

エムペサはCMを積極的に行っています。LINE Payも使える店舗は増えてきていますが、今後、個人間の送金についても告知していく必要があります。

M-PESAはケニアで生活必需品になっている

エムペサは、ケニアの人々の生活に必要不可欠になっているので、都市部・農村部どちらでも普及しています。

生活に必要なインフラとしての地位を確立しているのです。LINE Payも日常の生活すべてを賄えるようなサービスになる可能性はありますが、現状では難しいでしょう。

ただし、エムペサは基本的に18歳以上という縛りがありますが、LINEは若年層の利用が多いサービスです。ファッションやゲームなど若者向けのサービスを拡充していけば、今後大きく普及する可能性があります。

まとめ

電気や水道などの社会インフラの整備が遅れているアフリカですが、フィンテック分野では他の先進国よりも進んでいる分野があります。

たとえばM-PESAは、携帯電話の普及率が100%を超えているケニアで爆発的に利用が広がっている送金・決済サービスで、すでに日常生活に欠かせないインフラになっています。

日本でも、個人間でお金のやりとりができるLINE Payがあります。個人間金融サービスの認知度はまだ低いものの、M-PESAの成功例を参考に新しいサービスを拡充していけば、今後大きく普及する可能性があります。とくに、利用者の多い若者向けのサービスが望まれます。