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日本での解禁も間近?ペイロールカードの給与支払いを徹底解説

近い将来、電子決済による給与振込が解禁される見込みであることから、「ペイロールカード」の知名度が高まりつつあります。

海外では、銀行口座持たない人でもペイロールカードで給与を受け取る人が増えています。ペイロールカードとはどのような仕組みなのか、ペイロールカードが普及しているアメリカの事例とともに解説します。

ペイロールカードとは

給与支払い用のプリペイドカード

ペイロールカードとは、給与の振込先として機能するプリペイドカードのことです。

米国ではすでに普及していて、企業は銀行などの金融機関を通さずに、直接カードに給与を振り込みます。給与をもらった社員は、ペイロールカードで買い物をしたり、ATMで現金を引き出したりすることが可能です。

出典:首相官邸ホームページ(PDF)

厚生労働省は、2019年中にもデジタルマネーで企業が給料を従業員に支払えるようにします。ペイロールカードの大きな特徴は、銀行口座を開設する必要がないということです。

ペイロールカードのみで現金の引き出しや電子決済が可能になるので、外国人労働者など銀行口座の開設が難しい人でも利用できるようになるのです。

日本での解禁が国会の会議で検討されている

ペイロールカードなどデジタルマネーでの給与支払いが国会で審議されています。

給与は現金払いが原則で、「通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」と労働基準法で定められていますが、例外として銀行口座や一定の要件を満たす証券口座への入金も認められています。

そのため、銀行口座への給与支払いが一般的ですが、厚生労働省を中心に、ペイロールカードに入金ができるよう規制改革の検討が進められているのです。

ペイロールカードが解禁される理由

それでは、ペイロールカードが解禁される理由について見ていきましょう。

外国人労働者の利便性向上

外国人労働者は銀行口座を開設することが難しく、銀行振込に変わる賃金支払い手段への需要が高くなっています。銀行口座を開設できないと決済方法が制限され、日常生活に影響を受けるからです。

ただし、ペイロールカード口座への賃金支払いを可能にするためには、労働基準法における通貨払いの特例を創設する必要があります。

ペイロールカードは、資金移動業者がサービスを提供しています。

資金移動業とは、銀行などの預金取扱金融機関以外の者が行う為替取引をいいます。

参考記事:資金移動業とは(一般社団法人日本資金決済業決済業協会)

金融庁は2010年施行の資金決済法で、銀行ではない資金移動業者にも100万円以下の送金を認めました。2019年の金融審議会では、一度に100万円を超える送金を認める方向性も示されました。

資金移動業者は、海外送金を中心としたビジネスも展開していて、外国人労働者が海外にいる家族に送金する場合、今よりもスムーズに行えるようになることが予想されます。

キャッシュレス推進

出典:経済産業省

2015年の日本のキャッシュレス比率は18.4%。世界各国のキャッシュレス決済比率を見ると、韓国は89.1%に達するなど、キャッシュ化が進んでいる国では40~60%台に達する中、日本はキャッシュレス化が遅れているのが現状です。

野村総合研究所の推計では、年間240兆円の給料が会社員や公務員に支払われています。ペイロールカードで給与が支払われるようになれば、キャッシュレス化の普及が大きく進むことが期待できます。

補足:労働基準法の原則では給与は現金支払い

現在の給与支払いの方法は、1947年に制定された「労働基準法」が基になっています。

労働基準法第24条によって。給与は、「1.通貨で、2.直接労働者に、3.全額を、4.毎月1回以上、5.一定の期日を定めて支払わなければならない」と規定されているのです。

これを「賃金支払いの五原則」といいます。

制定当時の給与支払いは、すべて現金の手渡しでした。しかし、従業員に現金で給与を支払うと、さまざまなリスクやコストがかかります。さらに、給与を運ぶ現金輸送車が盗難事故にあうといったトラブルも発生し、社会問題になりました。

そこで、労働基準法施行規則7条の2によって例外が認められ、銀行などの金融機関や条件を満たした証券会社の口座への振り込みが可能になったのです。

こうして1969年頃から徐々に銀行口座への振り込みが主流になりました。これをさらに進めて、厚生労働省はペイロールカードへの入金を可能にする規定の新設を検討しているのです。

口座振り込みとペイロールカードを比較

預金保険の対象ではない

銀行は万が一破綻しても、預金保険によって元本1,000万円とその利息が保護されます。

しかし、資金移動業者は預金保険の対象外です。顧客の資産は100%の保全が義務付けられていますが、破綻した場合には資金が戻ってくるまでに時間がかかる可能性があります。

ペイロールカードを勝機とみているIT企業

ペイロールカードを勝機と見ているのはIT企業です。

スマホのアプリで受け取った給与を、そのまま送金や支払いに使うことができるからです。金融庁に登録する資金移動業者には、 LINEやメルカリなどのIT系金融子会社が64社登録しています。

IT企業は、選択肢の広がりで利便性が向上すると主張。一方、銀行は安全性などを残したままの解禁に反対しています。

しかし、国内でペイロールカードによる給与支払いが解禁される可能性は高まっています。企業はペイロールカードに対応し、人材採用での競争力をさらに強化していくことが求められるでしょう。

ペイロールカードが普及しているアメリカ

アメリカにおけるプリペイドカードの利用件数

ペイロールカードが普及しているのは米国です。2014年にペイロールカードで給与を受け取った米国人は約600万人。2019年には倍の1200万人まで拡大するといわれています。

アメリカにおけるプリペイドカード普及の理由

以前は、米国でもプリペイド決済はETCなどによる有料道路の通行料金の支払いに利用される程度でした。

しかし、近年プリペイドカードの利用が拡大しています。拡大している分野の一つは、銀行口座を持たない人々への公的給付や給与の支払いにおけるプリペイドカードの利用です。

2015年の時点で米国世帯の約7%が銀行口座を持っていないといわれています。

銀行口座を持っていない人たちに対する児童手当や年金などの公的給付や給与は、小切手による支払いが一般的でした。

しかし、小切手は作成費や輸送費がかかるほか、郵便事情による遅延や盗難・詐欺などの問題が生じていました。

小切手は、checking account(小切手口座)に入金して初めて使えるお金ですが、銀行の小切手口座を持たない人が米国には6,800万人いるといわれています。

小切手口座のない人は、小切手を現金化してくれる業者に持ち込む必要があります。米国の街では”check cashed”という看板を掲げている店舗をよく見かけます。小切手口座のない人達が手数料を支払い、小切手を現金化する場所です。

これは、日本の手形割引に近いサービスですが、現金化するのに手数料がかかります。2008年に行われた調査では、これらの金融業者で小切手を現金化するたびに、平均40ドルもの手数料がかかるという結果がでました。

また、米国で社会保障給付を受ける人々で銀行口座を持たない人は、2007年度時点で400万人以上にのぼると推定されていました。このまま高齢化が進展すると、小切手を印刷し、郵送することに要するコスト負担も急増していくことが確実でした。

そこで2008年6月に米財務省が導入したのが”Direct Express”と呼ばれるプリペイドカードです。

出典:LDVA

” Direct Express” はMasterCard ブランドのGPR プリペイドカード。

GPRは” general purpose reloadable” の略で、GPR プリペイドカードとは、資金を補充可能な汎用型プリペイドカードという意味です。

公的給付の支払先を”Direct Express”にすることで、銀行口座を持たない人でも電子的な支払いが可能になったのです。

米財務省は2011年5月1日以降、原則として新規受給者の小切手での受給をできなくしました。以前から小切手で受領している人についても、2013年3月1日以降は電子的支払いに移行することを決定。その結果、現在は公的給付の電子化率はほぼ100%となっているのです。

民間企業の給与支払についても、以前は銀行口座持ってない労働者に対しては小切手で支払っていましたが、会社側が小切手の代わりにプリペイドカードを支給し、給料日ごとにチャージする仕組み(ペイロールカード)が普及するようになりました。

最近のペイロールカードは、VISA やマスターカードなどのブランド付きで発行され、さまざまな場所で利用可能です。

2008年のリーマンショック以降、銀行では規制強化や収益悪化を背景に、利用手数料引き上げや顧客選別を強める傾向にあります。消費者側でも、経済的に困窮して銀行口座を開設できない人や、クレジットカードを利用できない人が増えました。

そのような背景が、プリペイドカード普及の原因なのです。

銀行口座保有者による利用も拡大

米国では給与や公的給付など、企業や政府など支払う側が導入したプリペイドカードだけではなく、利用者自らが銀行のクレジットカードやデビットカードに代わる金融商品として、プリペイドカードを利用する機会が増えています。

プリペイドカードの利用アンケート調査でも、毎月1回でもGPRプリペイドカードを利用している人の数は、2012年から2014年の2年間で50%増加しましたが、銀行口座保有者による利用者の増加が多いという結果になりました。

銀行口座を持つ人でも、プリペイドカードを娯楽用や子供への仕送りなど、用途を使いわけているのです。

ペイロールカードを活用したアメリカの事例

出典:greendot

米国のプリペイドカードの運営主体は、プロジェクトマネージャーと呼ばれる企業で、多くはノンバンクです。米国のGPRプリペイドカードのプロジェクトマネージャーとしては、「グリーンドット」が有名です。

グリーンドットは、さまざまな企業のGPRプリペイドカード導入支援サービスを展開していましたが、とくに2006年にウォルマートのMoneyCardの運営を担うことで、業績を大きく拡大させました。

ウォルマートのMoneyCard とは

出典:walmart moneycard

MoneyCardは、無料でオンライン入手できるほか、ウォルマートのレジで3ドルで購入できます。ウォルマートでの利用により、カード代金の3ドルがキャッシュバックされる仕組みです。

カードへの入金はウォルマートだけでなく、グリーンドットが運営するプリペイドカードを提供する他のスーパーマーケットやドラッグストアでも可能。

ウォルマートのストアやオンラインショップで利用すると、キャッシュバックなどの特典があります。ただ、VISAブランドのGPRプリペイドカードなので、他の場所でも利用可能です。

ウォルマートは、MoneyCardを介した金額が20億ドル(約2,200億円)を超えたと発表しています。

ウォルマートは、請求書の支払いや小切手の現金化、プリペイドカードといった金融サービスを顧客に提供しており、とくにクレジットカードの審査が通りにくい人々への金融サービスの提供に積極的に取り組んでいます。

MoneyCardの利用は、ますます拡大していくでしょう。

まとめ

・ペイロールカードとは、給与の振込先として機能するカードとして、米国ではすでに普及している

・銀行などの金融機関を通さずに直接カードに給与を振り込むことができる

・ペイロールカードで受け取った給与は、買い物をしたり、ATMで現金を引き出したりすることが可能

・厚生労働省を中心に、ペイロールカードが使えるよう規制改革の検討が進められている

・外国人労働者の利便性向上のためにも、ペイロールカードの使用解禁が望まれている

・各国と比べて普及が遅れている国内のキャッシュレス化がペイロールカードにより大きく進展することが期待される