
自ら不動産仲介事業者としてビジネスを展開するネット起業の群れを「デジタル仲介」と呼びます。いずれも、ネット集客を活用しますが、エージェントと呼ばれるエージェントたちが原動力となっています。
最近では、買取再販の分野でもテック系のスタートアップ企業の勢力が伸びていてソフトバンクも投資をしていると話題です。この記事では、不動産業界で勢いを上げているデジタル仲介について紐解いていきます。
目次
デジタル仲介の恐ろしい威力の実態
ニューヨークでは、世界の富裕層を相手にした不動産取引を大手不動産仲介会社のDouglas Eliman(ダグラスエリーマン)とSotheby’s Internatinal Realty(サザビーズインターナショナルリアルティ)が引き受けていました。
しかし、2017年末、ニューヨークの不動産会社の仲介件数ランキングにおいて、創業5年に過ぎない新興ブローカーCompass(コンパス)が第4位に輝いたのです。同社は、2012念にニューヨークに設立した「デジタルブローカー」の1つ。
出典:compass公式
不動産仲介業では、報酬制度との関係もあり、1人の営業担当が内見から契約まで一貫して担当するのが一般的です。しかし、デジタル仲介は業務プロセスを内見・申込・契約と細分化して、能力のある営業担当を現場業務に専念させることで、人件費の配分を最大限に効率化していきます。
このように、チームの営業プロセスを「見える化」するクラウドソフトウェアやモバイルアプリの徹底的な活用が、大きな特徴となっています。デジタル仲介会社の多くの創業者は、IT業界出身の若者達なのです。
ニューヨーク住宅仲介ランキング
デジタル仲介のビジネスモデル
デジタル仲介のビジネスモデルは、米国に古くから存在するディスカウント仲介のそれを現代風にアレンジしたものとなります。
分業体制によって、仲介手数料を削減するディスカウント仲介は、経験の浅い若手エージェントを固定給で大量に雇用するため、サービス水準は高くなく、なかなか成長することはありませんでした。
その一方で、デジタル仲介はITツールによって、エージェントのサービス水準のばらつきを防ぐとともに、浮いたコストを有能な人材の採用に投資することで、従来のディスカウント仲介のイメージを一線画す評判を築きました。
事例を見れば分かる通り、米国のデジタル仲介は、個々のエージェントのスキルや人脈にかなり依存した商売であることが分かります。
近年では、ソーシャルメディアの普及によって、エージェントが自らをブランディングしていくことも可能となりました。その一方で、ブローカーがエージェントに提供できる価値が減少しており、エージェントの影響力が相対的に高まっているのが現状です。
このように、デジタル仲介は、ITツールによる業務効率化、スタートアップ特有の成長性といった魅力を加えることで、ブローカーの存在意義を再定義しているということが分かります。
事例:Compass(コンパス)
コンパスの場合、当初はUrban Compassという社名の賃貸専業仲介会社として創業しました。
公的統計やソーシャルメディアの口コミデータに基づいて、賃借人に最適な住宅を検索し、地域スペシャリストと呼ばれるブローカーが契約、その後のアフターサービスまで支援するサービスを始めました。
同社の快進撃が始まったのは、2014年に住宅売買への進出を宣言してからです。まずは、市内屈指の腕利きエージェントに対して、他社よりも高い移籍金を約束した上で、ストックオプションをちらつかせて、次々と引き抜いていきました。
米国では、営業の最前線に立つエージェントはブローカーの社員ではなく、契約を結んだ個人事業主であることが一般的です。
センリュリー21など従来型のブローカーは、ブランド使用の対価などとしてエージャントにコミッション(上納金)を請求しますが、コンパスなら、それもゼロ。
既にレッドフィンなどのデジタル仲介が成長していた中で、潜在的に危機感を持っていた敏腕エージェントが既存のブローカーから次々と逃げ出す形になったのです。このようなコンパスは、物件看板などの電子ツールの開発にも積極的です。
事例:レッドフィン
出典:レッドフィン公式
デジタル仲介分野において、コンパスに先行したのが2002年に創業されたREDFIN(レッドフィン)です。
同社は、シアトルでIT技術者たちが設立しました。よく、リスティングサイトとしてジローと比較される同社。サイト上で、物件の価格推定サービスを提供している点も共通していますが、自らが仲介免許を持つブローカーとなって、現場にエージェントを配置し、売買手続きを提供している点が異なります。
いわば、オンラインとオフラインの良いとこ取りをしているのです。
同社のRedfin Estimateは、自社のエージェントが取引した不動産売買の情報を活用して、全米4,000万件を対象に独自に住宅価格を推定するサービス。価格推定と実際の取引価格との誤差の中央値は1.9%と発表されており、精度の高い住宅価格情報を提供しています。
また、自社のポータルサイトを各地のMLSとリアルタイム接続することで、物件情報の精度を向上したり、広告作成、顧客管理、電子契約などのデジタル化によって、業務のコスト削減に取り組んだりと、ITの活用でも先頭を走ってきました。
買い主が仲介手数料を負担することのない米国では、売り主が自分と相手の仲介手数料を合わせ、物件価格の6%程度負担するのが一般的です。これに対して、レッドフィンは、自分自身の仲介手数料1.5%にとどめることで、売り主の負担を合計4.5%に抑えられるとアピールしました。
先進的なイメージも武器に営業地域を全米に拡大させ、2017年7月に公募価格を45%上回る初値をつけて、ナスタッグ証券取引所にも上場を果たし、1億3800万ドルの資金調達に成功しました。
事例:ジロー
出典:Zillow公式
デジタル仲介の成長を受けて、過去に仲介ビジネスへの参入を何度も否定してきたZillow(ジロー)も、フロリダ州で住宅仲介のテストを開始しています。実際の仲介業務は、同社の有料会員プログラムPremier Brokerに登録しているエージェントが担当します。
買い主がジローを通して問い合わせをした物件が成約した場合、エージェントがコミッションとして仲介手数料の一部を同社に支払う仕組み。
この背景は、レッドフィンやコンパスの浸食によって、中核ビジネスであるリスティングサイトの一強状態が揺らいでいることも大きく影を落としているようです。
米国で起きているデジタル仲介の動き
米国では、不動産×ITを融合させた不動産テックのスタートアップ企業が増えています。これらの企業は、どのような特徴を持つのかを把握しておきましょう。
店舗を持たないデジタル仲介の進出
非常に勢いを増しているデジタル仲介会社として有名なのが、expリアルティです。同社は、2016年以降、年率約3倍のペースで売上高を伸ばしてきました。2018年5月にはナスダックに上場を果たしており、同年の売上高は4億ドルを大きく超えたのです。
出典:eXpReality
通勤しない仲介会社と知られている同社には、住宅仲介の基本となる店舗が一つも存在しません。その代わりにあるのは、wXp Worldと呼ばれる統合業務ソフトウェア。
住宅売買の各種手続きを支援するトランザクションツール、セールスや顧客リレーションといった住宅仲介のテクニックを学ぶことができるオンライントレーニング、チラシや看板の作成を支援するプロモーションツール、ファイナンスやITの専門スタッフと相談できるリアルタイムサポートを備えたデジタルプラットフォームです。
その特徴は、3Dアバターを活用したコミュニケーションツールが統合されていること。
eXpの社員やエージェントは、オフィスフロアや会議室を模した仮想空間に毎日決まってログインし、自分自身の分身であるアバターを通じて、リアルなオフィスと同じように時間を仲間と共有します。営業情報の交換や進捗報告、研修など、チャットやビデオ会議で済ませてしまうのです。
このように、会社がデジタル空間に存在するという点で大きな注目を集めています。eXpは、固定費の大幅削減を実現し、エージェントからのコミッションを最小化して利益還元に努めています。
人工知能を駆使したデジタル再販ビジネスが成長
中古住宅では、AIなどの技術を使用した住宅の査定、購入して転売するスタートアップ企業が急成長しています。数多くのベンチャーキャピタリストを惹きつけているのが、買取再販という事業モデルのリスクを、テクノロジーを使用して最小化を実現。
売却を希望する顧客が、住宅の見積もりをWEB上でオープンドアに依頼すると、同社は周辺の類似物件の取引事例や自治体の課税評価額を基に機械的に推定した買取価格を提示するのです。
早ければ、依頼したその日のうちにホームインスペクターと呼ばれる査定員が自宅を訪問して、住宅の状態を目視調査してモバイルアプリで査定額を算出するのです。の場で価格に納得すれば、3日以内に決済可能という仕組み。
このように、米国では、人工知能を駆使したデジタル再販ビジネスも急成長しているのです。
まとめ
米国の不動産業界では、デジタル仲介がブームとなっています。
ITを駆使した業務効率化や、固定費の削減などをすることによって、設立数年でトップ5に上りつめるスタートアップ企業も登場しました。デジタル仲介の勢いは後を絶ちません。
このような業務効率化・経営手法は、不動産分野にとどまらず、他の業界にも役立てることができるでしょう。そのため、今後の米国の不動産業界の動きに注目しておくと面白いかもしれません。