キャッシュレス化の波は欧州にも!最新欧州フィンテック事情

キャッシュレス決済が世界で拡がりを見せています。発展している国として良く取り上げられるのは、米国や中国です。しかし、欧州もフィンテックが発展してきているのです。ここでは、欧州のフィンテック事情について詳しく解説していきます。

欧州のフィンテック事情

欧州には多くの国が存在しており、金融サービスの在り方も国によって大きく異なります。

フィンテックが拡大する北欧諸国

デンマークやスウェーデンなどの北欧諸国、ドイツ、英国などでは、ほぼ全員が銀行口座を持っています。また、北欧諸国では、決済のキャッシュレス化が大変進んでおり、ロンドンが世界有数の金融センターであることを背景に、英国では、フィンテックのスタートアップ企業が多く誕生しています。

北欧諸国で進むキャッシュレス決済

デンマークでは、小売店舗での現金利用率が1990年代初頭の約60%から、2015年には約20%まで低下し、一方で、カード決済率が約80%まで上昇しています。首都のコペンハーゲンのカフェには、POSレジが設置されておらず、タブレット端末とICカードリーダーだけが設置されています。

このような店舗が今では普通の光景です。

また、自転車大国のデンマークでは、コペンハーゲンに自転車専用道路が整備されていますが、市民や観光客などが利用できるシェア自転車も登場。このシェア自転車のサービスは、カード決済を前提としたつくりになっています。

フィンランドでも、2000年以前は、圧倒的に現金が利用されていましたが、2000年代に入ってカード利用が大幅に増加し、現在では、日用品の購入におけるカード決済の比率は80%に達しています。

フィンテックが進展しない旧東欧諸国

北欧諸国では全員が銀行口座を持っているのに対し、ブルガリアやルーマニアなどの旧東欧諸国では、銀行口座の保有率は60%程度にとどまっています。

また、キャッシュレス決済の比率も低い水準にとどまっているのです。その背景には、過去の大戦に至った経緯などから、プライバシーを重視して、買い物など個人の行動を監視されることを嫌がる国民性が原因と言われています。

国ごとに大きな違いを解消する欧州連合とユーロ

国ごとの大きな違いをなくす方向に向かわせる役割を果たしているのが、欧州連合(EU)と統一通貨であるユーロ(EURO)です。ユーロの発行や運用は欧州中央銀行(ECB)が行っており、ユーロを導入している国は、共通のルールに従う必要があります。

決済に関わる規則としては、2000年の「電子マネー指令」や2007年の「決済サービス指令」「改正決済サービス指令」などが定められており、EU加盟国はこれに対応する必要があるのです。

英国のEU脱退後、EUそしてユーロがより統合に向かうのか、それとも分散するのか、フィンテックサービスの利用やフィンテック企業の業績に大きな影響を与えることになるでしょう。

銀行のコスト削減がキャッシュレス化の原動力

北欧諸国のキャッシュレス化の拡大には、銀行が大きな役割を果たしました。

銀行主導型のデビットカード「Dankort」の登場

出典:Dankort

デンマークでは、銀行が主導する形で「Dankort」という国内独自のデビットカードが広く普及しています。カード決済では、手数料など店舗側の費用負担の問題から、対応する店舗が増えないという課題がありました。

しかし「Dankort」では、加盟店から徴収する手数料を安く抑えることで、対応店舗の増大を達成しました。フィンランドでは、かつては国内規格のデビットカードが普及していましたが、現在はVISAなど国際ブランドが提供するカードを利用することが一般的です。

カード決済に負けずにモバイル決済も拡大

北欧諸国ではカード決済が広く普及していますが、スマートフォンを利用したモバイル決済も拡がりをみせています。

とくに、スマートフォンのアプリを使用して手軽に送金ができるP2P送金サービスが人気です。デンマークの「MobilePay」、スウェーデンの「Swish」、ノルウェーの「Vipps」、フィンランドの「Siirto」と、各国それぞれに代表的なサービスが存在します。

出典:Mobile Pay

とくに、MobilePayは、デンマークの大手銀行であるDanskeを中心に、Nordea、Jyske、BOKISなどの大手銀行が協力することで、デンマーク国内での利用が一気に加速しました。

MobilePayやSwishでは、店舗での支払いへの対応が進められていますが、利用実態は、まだ限定的です。その背景には、カード決済があまりにも普及しているため、モバイル決済を行う動機が少ないということが挙げられます。

政策面でもキャッシュレス化を推進

北欧祖国では、政策面でも積極的にキャッシュレス化が後押しされています。たとえば、フィンランドでは、国民からの銀行口座開設の申し込みを銀行が受け入れる義務があり、子供が生まれて半年経過すると銀行口座を開設することが普通です。

その一方で、現金の流通を少なくさせる政策もとられています。

デンマークでは、年金や税金還付など公共部門の金銭の支給を、現金ではなく銀行口座に振り込ませる「NemKonto」という制度があります。フィンランドでも、給与や年金などを銀行口座に振り込むことが企業や政府に義務付けられています。

出典:NemKonto

銀行の現金取引インフラの縮小

キャッシュレス決済の普及に合わせて、銀行の現金を取り扱う機能も縮小しています。

デンマークでは、過去10年間に銀行の数が合併などで半分になり、支店の数もほぼ半減しました。また、現金を取り扱わない銀行支店も大幅に増加しています。フィンランドでも、2000年から2015年にかけて、ATMの設置台数が半減しています。

このように、銀行にとって現金取引インフラの縮小によるコスト削減効果が、キャッシュレス化推進の大きな原動力となっているのです。

欧州諸国の既存銀行の動向

欧州のフィンテック事情を見る上で、英国の銀行の動きも重要です。英国の銀行業界は、1960年代には30桁近くあった大手銀行が合併を繰り返して、現在では6桁程度に集約しました。

しかし、近年、こうした大手銀行の寡占状態を打ち破るべく「チャレンジャーバンク」と呼ばれる新しい銀行の参入が相次いでいます。

チャレンジャーバンクには、いくつかの形態がありますが、最も注目を集めているのが支店やATMを極力持たずに、インターネットやスマートフォンを通じて銀行サービスを提供する「デジタルオンリーバンク」です。主な銀行としては、MonzoやStarling、Atom Bankなどが有名です。

チャレンジャーバンクの事業内容

Monzoは支店やコールセンターを設置せずに、スマートフォンのアプリを主な顧客との接点としています。

顧客には当座預金とデビットカードを無料で提供し、口座から支払いを行うと、食料品・外食・交通費などの費用を項目ごとに分類・集計し、スマートフォン上に分かりやすく表示してくれます。また、利用者間では無料で即時送金もすることができ、カスタマーサポートセンターへの連絡もチャットですることが可能です。

このような利便性の高いチャレンジャーバンクにも課題があります。MonzoやStarlingは預金者の口座の獲得を積極的に行っていますが、集めた資金を融資・運用するスキームが定まっていないように見えます。融資の提供など、収益源の確保が最優先課題となることは間違いありません。

参考記事:GAFAに次ぐ世界の革新企業と呼ばれるフィンテック企業6社を徹底解説

フィンテック企業を支える英国政府

英国では国としてフィンテックを育成する立場を明確にし、それに沿った政策を導入しています。2014年8月には、当時のGeorge Osborne財務大臣が「英国をGlobal Fintech Capitalとして発展させる」と発言しているのです。

金融行為規制機構(FCA)は、2014年10月に開始した「Project Innovate」において、個別のフィンテック企業に対して、コンプライアンスに関するアドバイスを行う「Innovation Hub」の設置とフィンテック発展に向けた制度改革の検討などを打ち出しました。

また、2015年11月にはRegulatory Sandboxが導入されています。

オンラインレンディングに対する優遇税制

英国政府は、オンラインレンディングに対する優遇税制も導入されています。

英国には、日本のNISA創設の参考ともなった「Individual Savings Account(ISA)」という非課税投資・預金制度がありますが、2016年4月に「Innovative Finance ISA」というP2Pレンディングへの投資を対象とした口座が開設できるようになりました。

金融行為規制機構と「英国歳入関税庁(HMRC)」の認可を受けたP2Pレンディング事業者のサービスが対象で、2017年に入ってFunding CircleやZOPAなど、大手も認可を受けています。

フィンテックの根幹となるICT企業の育成も開始

英国政府では、フィンテックの根幹となるICT産業を育成する政策もとられています。

2010年末には、イーストロンドン地区において、税制優遇やビザの緩和も含むICT産業に特化した積極誘致政策「Tech City構想」を打ち出しました。

この政策を受けて、Google、Amazonを含めた世界トップクラスのICT企業が積極的に投資を行い、現在のロンドンは世界有数のICT集積地区となりました。こうしたICT産業の強化が、フィンテックの土台を支える磯となっているのです。

まとめ

さまざまな国が含まれる欧米諸国は、文化や価値観の違いがありキャッシュレスの拡がりにもバラツキがあります。しかし、キャッシュレスが急速に拡大している北欧諸国では、「デジタルオンリーバンク」が登場しています。

主な銀行としては、MonzoやStarling、Atom Bankなどが有名です。これらの利用者の増加には目を引くものがあります。

日本のフィンテック企業も参考にできる部分があるでしょう。北欧諸国では、政府の政策としてICT企業の育成が開始されています。今後テクノロジーを活用した画期的なサービスが北欧諸国から誕生することでしょう。そのため、米国や中国のみならず、北欧のフィンテック動向にも注目しておきましょう。