
長い歴史を持つ保険の分野でもフィンテックを利用した起業が盛んです。テクノロジーを保険分野に利用したのが「InsurTech(インシュアテック)」です。欧米でも注目度が高いフィンテック分野ですが、米国でとくに注目されているインシュアテック企業が「Lemonade(レモネード)」です。
この記事では、レモネードの仕組みや特徴・将来性について解説します。
目次
Lemonade(レモネード)とは
出典:Lemonade
Lemonadeの会社概要
テクノロジーを活用して保険の仕組みを変えるInsurTech(インシュアテック)が、世界的に注目されています。InsurTech(インシュアテック)とは、テクノロジーを利用した新しい保険商品の開発や募集・契約・審査プロセスの変革など、保険の仕組みを変えようとする保険版のフィンテックのことです。
米国ではインシュアテックの代表的企業としてLemonade(レモネード)が注目されています。
Lemonade(レモネード)は、2015年に設立された米国ニューヨークに拠点を置く世界初のP2P損害保険会社で、30万人以上の顧客を抱えています。2018年の売上は5,700万ドルに達し、16万2,000ドル以上をチャリテイに寄付しています。
レモネードは、住宅所有者や賃貸人向けの損害保険を、それまでの半額近い保険料で提供し、保険の加入手続きや請求手続きをすべてスマホで行うことができます。
また、特定の慈善団体(NPO)を支援するグループを作り、保険の未請求金を年1回寄付するという仕組みが特徴的です。
従来の米国の保険会社は、多くの従業員を抱え、業務を手作業で行なっています。しかし、レモネードは、AI(人工知能)や行動経済学を導入し、保険の仕組みの透明化や簡素化に取り組み、平均的な保険会社に比べて事業費を90%以上削減することを目標としているのです。
Lemonadeの創業者
レモネードは、ダニエル・シュライバーとシャイ・ウィニガーによって2015年4月に設立されました。二人とも出身業界は保険と関わりがありません。しかし、保険業界と関わりがなかったからこそ、以下のような従来の保険システムを大きく変える革新的なシステムを開発できたのです。
⦁ 人工知能(AI)や行動経済学の活用
⦁ チャットボットによる無人化対応
それでは、レモネ―トの具体的な仕組みを見ていきましょう
Lemonade(レモネード)の仕組み
家具や家電など家財を対象とした保険
レモネードは、家具や家電など家財を対象にした保険。保険に入りたい家具をスマホのカメラで撮影し、住所と家のタイプ(持ち家・賃貸)を入力するだけで家財保険に加入できます。レモネードはインシュアテック業界では珍しく、自社の保険商品を販売していて、支払い保険料は以下のように低価格になっています。
⦁ 持ち家に住んでいる人は月額25ドル~
⦁ 賃貸物件に住んでいる人は月額5ドル~
レモネードはAI(人工知能)の活用で、保険の加入手続きや支払いスピードを劇的に高めました。さらに、顧客とのやり取りを自動化するため、チャットボットを活用しています。万が一、家財の盗難や破損が生じた場合でも、スマホで撮った写真をチャットボットに送信するだけで保険金が請求できます。
レモネードのAIジム(AI Jim)は、世界でいちばん有名な保険チャットボット。チャット画面は中年男性ですが、中身はAIです。
チャットボットの質問に答えるだけで保険の加入手続きが終了し、保険金の支払いやクレーム処理もチャットボットが対応します。
レモネードは、保険の加入から保険金の請求まですべてスマホで完結できるので、20代のミレニアム世代に人気があります。ミレニアム世代(1980~2000年代初頭生まれ)は、PCやスマートフォンに慣れ親しんでいるので、「デジタルネイティブ」とも呼ばれています。
同じ寄付先を指定してグループを作成するP2P保険
レモネードはP2P保険の代表的な企業です。
2010年にドイツでFriendsurance(フレンドシュアランス)が取扱いを開始したのがP2P保険の始まりといわれています。
小さなグループでお金を出し合って資金プールを作り、メンバーから保険金の請求があれば、そこからお金を引き出します。もし保険金の請求がなければ全員にキャッシュバックされるか、翌年以降の保険料が割引きされる仕組みです。
レモネードの保険に加入する時、寄付先のNPOも同時に選択します。その後、寄付の対象が同じレモネード会員との友達グループが自動的に作られます。友達グループ内で保険料を集め、請求があったときはその中から支払うという仕組みになっているのです。
1年に1回、未請求金を慈善的な団体に寄付するという道徳的な側面があることも特徴です。もし、1年間誰も保険金の請求をしなかった場合、ユーザーが支払った保険料の最大40%がNPOに寄付されます。このような社会貢献の仕組みが若者の間でウケているのです。
Lemonade(レモネード)の収益は保険料の2割
レモネードの収益は、保険料の2割と決まっています。収益を公開することで保険の仕組みが透明化され、顧客からの信頼も高まっています。
また、手数料を一律2割に決めることで、保険会社も良い保険を顧客に提供し、保険加入者を増やそうという狙いがあるのです。
Lemonade(レモネード)の特徴
わかりやすい保険システム
従来の保険は、ユーザーの支払う保険料から請求された保険を差し引いたすべてが保険会社の収益になります。つまり、保険金の支払いを抑制するほど、保険会社の利益は増えるのです。その結果、保険料の支給額がユーザーの請求額よりも少なくなってしまうことがあります。
一方レモネードは、ユーザーから受け取るお金が保険料の20%と決まっているので、ユーザーの請求額通りに保険料が支払われます。
レモネードは20%のフィーを受取るだけで、残りの保険料は保険金の支払いに充てられ、残った保険料はNPOに寄付されます。保険金の支払いを抑制してもレモネードにお金は入らないので、保険料支払いを抑制しようとするインセンティブは働かないのです。
レモネードでの保険金支払いは、グループごとに保険料の一部が蓄積されたプールから支払われます。プール内の資金で保険金の支払いが出来ない時は、レモネードが備えた再保険から支払われます。
スマホで完結する簡単な契約手続き
レモネ―ドの保険契約はすべてスマホでできるので、保険会社に出向くことはありません。印鑑や本人確認書類を準備する必要もなく、加入手続きはたった2分で完了できます。
家財に保険をかけるときも、保険に入りたい家財の写真を撮って、チャットボットに送るだけです。このように契約手続きのすべてをスマホで簡単に済ますことができるのです。
保険金の請求がしやすい
保険会社は、保険料の支払いを渋る傾向があります。顧客からの保険料請求は、保険会社にとってマイナスを意味するからです。
しかし、レモネードはフィーが決まっているので、支払いを渋ることはありません。適切に判断してくれるので、保険金を請求しやすいというメリットがあるのです。
保険金の請求をするときは、壊れた家財の写真をスマホで撮ってチャットボットに送るだけで完了します。専門家が家にきたり、保険会社から電話がかかってきたりすることはありません。
レモネードの保険金支払いはすぐに行われます。保険金の支払いは、AIと行動経済学を活用した保険金詐欺対策アルゴリズムを採用。アルゴリズムが保険金請求を認めた場合、自動的に3秒以内に保険金が支払われます。認められなかった場合は、専門家チームに回されて検討されます。
Lemonade(レモネード)の問題点
再保険への依存が高まりやすい
レモネードはNPOに寄付をするので、保険料の余剰資金を貯めていくことができません。その結果、再保険への依存が高まりやすくなります。再保険とは、万が一のときに保険料の支払いができないという事態を避けるため、保険会社が保険に入って(再保険)リスクをヘッジ(回避)することです。
グループ内で事故が発生した場合、保険金はまずグループのプールから支払われます。しかし、大きな事故が発生してグループのプールで不足する場合は、再保険でカバーされるのです。
Lemonade(レモネード)の将来性
レモネードは人と会うことなくスマホで簡単に契約でき、保険料の請求も手間がかかりません。さらに手数料や資金の流れが透明で、信頼感があります。とくにスマホを使いこなしているミレニアム世代に普及することが期待されています。
2017年度には高額の資金調達に成功
レモネードは、2019年のフォーブスの「Fintech50」に選出されるなど、注目度が高い企業です。2017年には、世界のインシュアテック企業の資金調達額が2,420億円に達しましたが、レモネードは高額の資金調達に成功したスタートアップ(新興企業)10社にランクインしています。
<Forbes>THE LIST: 2019 FINTECH 50 (The Most Innovative Fintech Companies In 2019)
ソフトバンクが大型出資
レモネードは、2019年4月にソフトバンクグループなどから3億ドル(約330億円)の出資を受けると発表しました。2017年12月にもレモネードは、1億2000万ドル(約135億円)の出資をソフトバンクグループなどから受けています。
今回の調達資金は、欧米での事業拡大などに振り向けるとしています。
これまで米国でしかサービスを展開していませんが、2019年6月にドイツで個人向けの家財保険および賠償責任保険の販売を開始しました。レモネードはドイツでの事業開始を皮切りに、数年内に欧州の多くの国で事業を開始することを計画しています。
レモネードは、ソフトバンクを含む世界中の企業から出資を受けているので、今後の世界展開が期待されていて、日本進出の可能性もあります。
LemonadeなどのP2P保険は日本で普及するか?
2018年にJustInCaseがP2P型のスマホ保険を販売しましたが、あくまで試行という状態で、金融庁はP2P保険のシステムを認可していません。今後、P2P保険が法的に認められるかわからないので、日本での普及は今のところわかりませんが、レモネードが日本に進出すれば、流れが変わる可能性もあります。
まとめ
レモネードは2015年に創業されたInsurtech(インシュアテック)企業。スマホひとつで契約から保険料の契約までできるので、20代のミレニアム世代に人気があります。
2019年にドイツで事業を開始し、初めて海外進出を果たしましたが、ソフトバンクからの投資も受けているので、日本進出の可能性もあります。現在のところP2P保険は認可されていませんが、レモネードが日本に進出すれば、流れが変わる可能性もあるでしょう。