
テック企業の爆発的な成長力と、その雇用は世界中でオフィス街の勢力図を塗り替えています。
GAFAと呼ばれる巨大プレイヤーを中心に、テナントとしてビルを借りるだけで飽き足らず、IOTや自動運転といった新技術の実験場として、街づくりそのものに乗り出す例も増えてきているのです。ここでは、テック雇用を生み出すオフィスについて詳しく解説します。
目次
Google社:衝撃的な渋谷移転
2017年11月、グーグルは渋谷に東京急行電鉄が開発中だった35階建ての複合ビル、渋谷ストリートに移転することを公表しました。
渋谷駅に隣接する地での大型プロジェクトとなるため、各局ニュース番組の冒頭を飾るニュースとなったが、不動産関係者に衝撃を与えたのは、何よりその賃借規模です。2019年初頭から14階~35階のオフィスフロア1万4,000坪の全体を賃借。
その事実は、同社が現在の日本法人社員1,300人に対して同等規模の従業員を近く採用し、今の2倍をビルに収容することを意味しています。
Googleの初の海外拠点が「日本」
2001年、グーグルにとって、初の海外拠点として進出を果たしたのが日本です。2010年には、渋谷益から徒歩5分、セルリアンタワーのオフィスを出て、六本木ヒルズ森タワーの2フロア約2,000坪に転出しました。
事業拡大によって、増床を繰り返し、最終的に1万坪を賃借していたが、再び渋谷、しかも同じ等級電鉄がオーナーのビルに戻ってくることになったのです。
世界で最もナビゲーションサービスの開発にしのぎを削る市場で開発されたモバイル版グーグルマップ、2011年の東日本大震災を契機に開発された安否確認サービスであるパーソンファインダーなど、グーグルにとって日本拠点は常に先進的なサービスの開発現場です。
米本社のルース・ポラットCFOは、発表会見の場で、優秀なエンジニアやクリエイターを多数抱える日本拠点において、今後も継続的に事業を拡大することを宣言しました。
Amazon社:アルコタワーアネックスを1棟借り
もう1社の巨人、アマゾンも日本拠点を拡大しています。2018年5月、アマゾンの日本法人は、JR目黒駅に隣接するオフィスビルの11フロア2万㎡を賃借しました。
長らく、目黒雅叙園のアルコタワーに本社を構えていたアマゾン日本法人は、2011年に増床棟のアルコタワーアネックスが完成すると一棟借りをしたのです。この賃借は、事業規模の拡大を受けてのことで、ビル竣工の前から床の確保に動いていたようです。
Amazon社は日本国内でのオープンイノベーションを進める
アルコタワーアネックスに入居契約と同時に発表された新規採用計画では、国内で、1000人のエンジニアやマーケティング人材を募集することを発表しました。
人工知能スピーカーであるEchoの販売や、生鮮食品の配送サービスであるアマゾンフレッシュの本格化を進めており、対応する人材の確保を急いでいます。
新オフィスには、多様な従業員に配慮するために授乳・搾乳室やイスラム教徒向けの礼拝室を設けており、さらにクラウドサービスであるアマゾン・ウェブ・サービスの利用者向けにコアワーキングスペースAWS Loft Tokyoを提供。
ここで、各種イベントなどを開催して、オープンイノベーション化をさらに進めることを考えています。
楽天:品川のオフィスを一棟借りする複合企業に急成長
米国の企業を迎え撃つのが楽天です。東京のオフィスマーケットで圧倒的な存在感を放っているテック企業と言えるでしょう。
楽天は、新橋の古ビルの一角で、1997年に創業。まもなく、目黒区の祐天寺エリアに移り、中核サービスの「楽天市場」で次々と加盟店を獲得しています。
2000年に中目黒に移転してからは、破竹の勢いでサービスの買収を進めていき、現在では証券会社・カード事業・携帯通信会社・野球チームなどを看過に擁するコングロマリット(複合企業)に成長しています。
祐天寺にオフィスを構えた頃の同社の社員は6人。
その後、収益面での転換点となった楽天市場の従量課金移行、東京証券取引所一部への上場などのハードルを乗り越えて、2003年には六本木ヒルズ森タワーへ。社員数5,000人を数え、当時楽天タワーと呼んだ、品川シーサイドノースタワーを一棟借りするまでに成長しました。
直近では、グループ社員数約1万5,000人を抱え、楽天クリムゾンタワーに本社を構えました。
Yahoo!:赤坂Kタワーに移転して優秀な人材を積極採用

ポータルサイトの集客力を武器に日本のテック業界で楽天と覇を競ってきたヤフー。
そのオフィスも表参道の明治安田生命青山パラシオタワーから、六本木ヒルズ森タワー、東京ミッドタウン・タワーへと移転を繰り広げながら、今では1万2000人規模の企業に成長しました。
一時は、スマートフォンへのシフトに後れを取り、後発のモバイルアプリスタートアップにその地位を脅かされていましたが、「爆速経営」の旗の下に経営改革を進めるなかで、アプリ開発者やデータサイエンティストなどのエンジニア採用に本腰を入れています。
ヤフーは、2016年、赤坂プリンスホテル跡地開発で誕生した東京ガーデンテラス紀尾井町に本社を移転しましたが、毎月、十数人から数十人を中途採用しているといい、2018年に入ると貸借した2万坪が既に手狭に。
2018年4月には一気に約300人が入社したといい、まもなく鹿島が保有する港区元赤坂の赤坂Kタワーの5フロア、2,000坪を賃借することが判明しています。
変わりゆく米国のオフィス市場
これまで、日本のオフィス市場について解説をしてきましたが、こうした現象は日本に限った話ではありません。ニューヨークを始めとする世界の主要都市で、テック企業は、オフィス市場に大きな影響を与える存在となっています。
ニューヨークのオフィス市場は、長らく銀行・証券・保険などの金融業、法律・会計・広告などのプロフェッショナル、新聞・出版・放送などのマスメディアと、三つの基幹産業が担ってきました。
しかし、近年これらの産業の就業者数は減少の一途をたどっています。
ニューヨークで最もオフィスが集積しているマンハッタンでは、2001年に全就業者の約23%となる53万人が、これらの産業に従事していました。しかし、2017年には47万人まで落ち込んでおり、6万人の雇用が喪失しています。この雇用減を埋めているのが、TAMIと呼ばれるテック企業を中心とした新たな産業なのです。
米国で注目を集める産業TAMI
TAMIとは、テクノロジー、デジタル広告、デジタルメディア、情報の頭文字をとったものであり、近年、米国不動産業界で大きな注目を集めています。2001年には、マンハッタンで全体の6%となる15万人であったTAMI就業者は、2017年には1.6倍となる25万人まで増加しており、2010年以降は毎年1万4,000人増加している成長産業です。
このTAMI就業者の増加に伴って、マンハッタンの新規オフィス賃借面積に変化が起きています。
2011年、TAMI関連の新規オフィス賃借面積は4万㎡と全体の2%に過ぎませんでした。しかし、2018年には16倍となる71万㎡まで拡大しており、全体の19%を占めるまでに成長しています。マンハッタンでは、このように従来の基幹産業の雇用減を補って余りある成長産業の存在が、オフィス市場の安定的な拡大に寄与しているのです。
テック企業で働く人々は、クリエイティブワーカーと呼ばれ、レンガ造の工場や倉庫など歴史が感じられるエリアや、大きな公園やビーチといった自然環境が豊富なエリアを好む傾向が強いと言われています。
さらにライトレールなどの公共交通が充実しており、カフェやレストランが点在するようなウォーカービリティの高いエリアは特に人気を集めています。そのため、テック企業は、ミッドタウンやロウワーマンハッタンのような超高層オフィスビルが乱立する典型的なオフィス街を敬遠する動きが出ているのです。
TAMIの代表格のグーグルのオフィス事情
TAMIの代表格であるグーグルは、2005年にチェルシー地区にある築80年以上のオフィス兼倉庫を一部賃借した後、従業員の拡大に伴って同建物を2011年に18億ドルで購入して不動算業界を驚かせました。
同社がこの建物を拠点として選択した理由が、使われていない大容量の光ファイバー専用線があったことと、クリエイティブワーカーが好むヒップなエリアに立地していたからです。
同建物が立地するチェルシー地区は、1900年代前半に建設されたレンガ造の工場や倉庫が集積している地域であり、近年では、多くの建物がリノベーションされておしゃれなレストランやバー、ブティックやギャラリーとなっています。
グーグルが購入した建物の西側には、築120年のビスケット工場を商業施設にリノベーションしたチェルシーマーケットが1997年にオープンし、2000年前半にはニューヨークの新たな観光名所として確固たる地位を築きました。
また。2009年には、かつての工場や倉庫の物流機能を担っていた鉄道高架を空中公園にリノベーションしたハイラインが開業し、さらに人気を集めています。
こうしたクリエイティブワーカーが好むヒップな都市空間が数多くの企業を惹きつけており、同地区には、グーグルの他に、Spotify、Twitter、eBay、dropboxなどのオフィスを解説しています。
まとめ
フィンテック市場は急速に拡大をしていますが、その影響でテック雇用は拡がり続けています。
米国では、これまでマスコミ関連で勤務していた人材が雇用機会の喪失の機会に遭遇し、多くの人がテック企業に就職をしているのです。このような動きと似たような動きは日本でも始まるでしょう。
そして、優秀な人材を獲得するためのオフィスづくりや街づくりが、テック企業によって誕生しようとしています。ビジネス感度が高い人は、事業内容だけではなく、各企業の移転などにも注目をしてみましょう。