既存金融機関への影響

FinTechによる既存金融機関への影響

この章では、金融機関の視点からFinTechによる影響を考察します。

FinTechの急速な発展と普及が、今後、既存金融機関にどのような影響を及ぼすかについては見方が分かれるところです。「最終的にFinTechのサービスが相互に連携して、既存金融機関のサービスを全て置き換えてしまう。」とする意見から、「結果的に既存金融機関が同種のサービスを提供する、もしくはFinTechの技術を取り込むことにより、既存金融機関に大きな影響を及ぼすことはない。」「そもそも日本では利用者に受け入れられない。」とする意見まで様々です。

法規制の動向やテクノロジーの動向、金融機関側の対応内容など様々な要因に左右されるものの、当サイトでは少なくとも一部のカテゴリや一部のサービスレイヤーにおいては、FinTechのサービスが既存金融機関のサービスに取って代わったり、FinTechと金融機関の協業がより一層進む可能性が高いのではないかと考えています。(特に、ブロックチェーン技術は、その発展形態によっては金融サービスや社会インフラそのものさえ一変させてしまう可能性も秘めています。)

一方で、2016年時点での日本におけるFinTech動向を見ると、FinTech企業と既存金融機関が対立するよりは、FinTech企業と既存金融機関(あるいはITベンダも含めて)が協業しながら新しいサービスを提供しようという機運が強いという特徴があります。カテゴリにもよりますが、そもそも「FinTech企業 VS 既存金融機関」という対立構図で捉えるのが間違っているという意見が優勢になっています。

いずれにしろ、最終的に既存金融機関がこれまで通り、金融サービスの担い手であり続けるとしても、FinTechの技術やサービスにキャッチアップしていかない金融機関は、他の先進的な金融機関に顧客基盤を奪われてしまうことが危惧されます。各金融機関は、各カテゴリにおけるFinTechの動向を継続的にウォッチしつつ、自機関に及ぼす影響を分析した上で、自機関の戦略に反映させていくことが求められています。

既存金融機関の戦略

概念的ではありますが、既存金融機関の戦略として、例えば以下のような戦略が考えられます。

  • 例1.積極的にFinTechへの出資やサービス連携を進めて、自金融機関のサービス向上や顧客囲い込みに努めていく。
  • 例2.自社でFinTechと同様の技術・サービスを開発することにより、FinTech企業のサービスに対抗していく。
  • 例3.自社の強みとする領域は独自開発しさらなるサービス向上を図り、それ以外の領域はFinTech企業との連携・活用を進める。
  • 例4.より付加価値の高い領域やサービスへとシフトしてく。

もちろん、このような戦略はFinTechの各カテゴリやサービス単位で、各金融機関の現状(強み・弱み、共同センタの状況等)を考慮した上で、個別戦略を構築する必要があります。

これらの戦略を議論・決定するのは、IT・システム部門だけの役割ではなく、各金融機関の経営陣の役割です。これまで以上にFinTechを含む金融ITに対する経営陣の主体的な関与が求められています。